1874年の創立以来、「キリスト教に基づく教育」を建学の精神に据え、一貫してリベラルアーツ教育を実践してきた立教大学。10学部27学科8専修1コースを擁する総合大学であり、近年では先進的なリーダーシップ教育が産業界からも注目を集めている。

同大学は2018年、イギリスの教育専門誌Times Higher Educationが実施する「THE世界大学ランキング2019」において、総合で国内大学中14位(私立大学中3位)という高い評価を受けた。さらに、過去5年間に発表された論文の被引用数をもとに、研究の社会的影響力や貢献度を示す「Citation(引用)」のスコアでは、国内6位を獲得。同指標では医学・看護系学部を擁する大学の順位が高くなる傾向があり、これらの学部を持たない大学としては大きな快挙。国内外に存在感を示す結果となった。
 

評価されたのは、研究の“質”

上記ランキングにおいて、論文の被引用数を大きく牽引したのが理学部だ。1949年に設置された理学部は立教大学唯一の理系学部であり、数学科、物理学科、化学科、生命理学科の4学科からなる。社会に直接的に役立つ研究を主眼とする工学とは異なり、物事や事象の根本にある原理を探る理学では、基礎研究が中心。科学の本質に迫る理学研究は、実用的な研究と手を携えながら、常に社会の発展を支え続けてきた。

今回の躍進を受けて、理学部化学科教授の大山秀子副総長(研究推進担当)はこう語る。
「本学の理学部は、他大学に比べると決して学部規模が大きいわけではありません。論文数では及ばないにもかかわらず、引用された数が多いということは、各分野で高い評価を受けた論文が多いことを意味します。いわゆる研究の“質”が証明されたと言えるでしょう」

立教大学 副総長(研究推進担当) 理学部 化学科 教授
大山 秀子 氏
理学博士 東京工業大学
専門分野:高分子化学

4学科全てが高い貢献度を示しているが、「中でも、特定分野における世界トップレベルの研究がランキングを引き上げた」と大山教授は分析する。
「例えば、物理学科の『素粒子・原子核』分野と『宇宙物理』分野では、国際協力のもとで推進されている研究に多数携わり、論文の被引用数を著しく伸ばしました。前者では、アメリカ・ブルックヘブン国立研究所での大型実験に複数名の教員が参加。後者では、宇宙航空研究開発機構(JAXA)などが進める大型国際プロジェクトに教員が参加しています。こうした分野に戦略的に特化し、各領域の第一線で活躍する教員を擁して独自性の高い研究を展開してきたことが、今回の評価につながったと捉えています」
 

世界で際立つ研究の数々と、活発化する産官学連携

各分野で高い成果を上げている研究は、枚挙にいとまがない。私立大学の特色を生かした研究を支援する文部科学省「私立大学戦略的研究基盤形成支援事業」には、理学部が推進する複数の研究プロジェクトが選定されている。その一つが、理学研究科に付属する先端科学計測研究センターによるプロジェクト「地上実験・飛翔体観測と理論による宇宙像研究の拠点形成」。2014年に採択されたこの取り組みは、最先端を走り続ける「宇宙物理」分野の研究の蓄積を生かす試みだ。

「このプロジェクトでは、『天体現象』『物質の起源』『空間構造』への理解を深め、『宇宙像』全体を解明することを目指しています。特色は、理論と地上実験、飛翔体観測の3方向から研究を進めていること。これらの手法を有機的に結び付け、人類にとって究極の疑問と言える宇宙の謎に新たな角度から迫ろうとしています」

惑星探査に向けて開発された探査ローバに立教大学先端科学計測研究センターで開発された元素分析装置を搭載し、伊豆大島でフィールド試験を実施。

大山教授自身は「高分子の構造と物性」を専門とし、暮らしに欠かせない高分子材料の高性能化・高機能化を目指す研究を手掛けている。特に、植物由来の高分子である「ポリ乳酸」の靭性(壊れにくさ)を高めることに成功した研究は、世界中から注目を集めた。
「トウモロコシを原料とするポリ乳酸は、環境負荷の少ない材料。靭性の低さという課題を克服したことで、用途の幅が大きく広がりました。人体との相性が良く、骨接合材や外科手術の縫合糸としての活用が期待されるほか、最近ではシェールガスの採掘効率を上げるため、砕いた岩盤の亀裂を固定する素材としても利用されています」

「基礎研究の面白さは、用途や可能性を社会の側が見つけてくれること」と大山教授は笑みを浮かべる。実際の研究では、企業や公的機関との共同研究も多く、学生にとっても大きな刺激になっているという。
「企業の研究職に就いた卒業生が、『先生と共同研究したい』と新規プロジェクトを持ち込んでくるケースもある。学外の研究者や実社会で活躍する先輩と直接関わることは、学生の高いモチベーションにつながっています」

理学部全体としても、理化学研究所や産業技術総合研究所といった国内トップクラスの研究機関と密に連携を図る「連携大学院制度」を導入。産官学連携により研究を高度化・多様化させながら、“次代の研究者”である学生を育てている。
 

時代の要請に応え、AI分野の開拓に挑む

一方、多彩な研究活動を支えるサポート制度が充実しているのも特色の一つ。全学的な研究費助成制度のほか、大学院学生が海外の学会に参加するための助成制度を大学と理学部の両方が設けるなど、手厚い支援を行っている。さらに、学内には32の研究機関と、研究の高度化・効率化・適正化をサポートするリサーチ・イニシアティブセンターがあり、理学部のみならず大学全体の研究の活性化を後押ししているという。
こうした多面的な取り組みが実を結び、文部科学省による「科学研究費助成事業」の新規採択率は、毎年全国平均を大きく上回る。2018年度は、研究機関別の新規採択率で私立大学中2位に輝いた。

理学研究において求められるのは、知識そのものではない。重要なのは「表面的な事象にとらわれず、物事の本質を見極める力」だと大山教授は力を込める。
「理学部の教育理念は、『科学の専門性を持った教養人の育成』です。学生には、学部の学び、さらに立教ならではのリベラルアーツ教育やリーダーシップ教育を通して、専門性とともに、広い視野と多面的なものの見方や考え方を身につけてほしい。それこそが、立教大学理学部で学ぶ意味だと考えています」

高性能・高機能化高分子材料の創出に使用される混練成形装置の前にて。大山研究室では高分子の構造解析、物性解析とともに新規高分子材料の研究を進めている。

今後は、理学部が中心となってAI分野の研究を積極的に推進し、同分野で世界を牽引する存在を目指すという。理学研究の知見と確かな実績を生かした新たな展開に、一層の期待がかかる。
「これからも基礎研究に重きを置きながら、AI分野の開拓をはじめとした新たな試みに着手し、時代の要請に応え続けたい。そして研究成果を企業や社会に還元し、大学の社会的使命を果たしていきたいと思います」


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