伝統に重ねる変革

 青山学院大学は青山キャンパスと相模原キャンパスの2つのキャンパスを有し、人文科学系・社会科学系・理工系合わせて10学部12研究科を擁する総合大学である。キリスト教信仰にもとづく教育を行い、歴史と伝統を大切にしながらも、開学70周年を迎える2019年には地域で活躍する人材を育成する「コミュニティ人間科学部」を開設するなど、時代に合わせて止まることのない変革を続けている。
 

未来社会を支える新素材の活用を目指す

 青山学院大学の学部のうち、人文科学系・社会科学系学部の7学部の学生は都心の渋谷・表参道地区にある青山キャンパスで学ぶ。そのためか一般的に文系大学のイメージが強いようだ。しかし、理工学部、社会情報学部、地球社会共生学部は、最先端の研究施設・設備の整った相模原キャンパスにあり、それぞれ特色ある研究に力を入れている。「本学の理工学部は規模がちょうどいいんです。それぞれの研究者の顔が見え、研究内容も把握しやすい。研究室や、さらには学科の枠組みを超えてコラボレーションした研究を行いやすい環境にあります」と話すのは、理工学部電気電子工学科の黄晋二教授だ。

青山学院大学 理工学部電気電子工学科 教授
黄 晋二 氏
東京大学 博士(工学)
専門分野:電子材料工学、応用物性、結晶工学

 黄教授率いる先端素子材料工学研究室では、世界的にも注目を集める素材である“グラフェン”を使った研究を進めている。2010年のノーベル物理学賞の研究対象でもあるグラフェンとは炭素原子がシート状に結合した物質で、これがたくさん積み重なると鉛筆の芯などに使われるグラファイトと呼ばれるものになる。引っ張ったり曲げたりしても壊れにくく、さらには軽くて電気をよく通す素材として注目を集めている。近年特に注目を集めている研究が「原子1層のグラフェンを用いて作成した透明アンテナ」だ。「私の研究室に所属する小菅祥平さん(理工学研究科理工学専攻電気電子工学コース博士後期課程1年)を中心に研究を進めており、今年8月に東京ビッグサイトで開催された大学の研究成果展示会『イノベーション・ジャパン2018』では、2日間で100社以上の企業と交流がありました。数ヶ月経った今も、引き合いが絶えません。そもそもこの研究は2017年に論文発表した際、学会誌「Applied Physics Letters」のWebページのトップに「Editor's picks(注目研究)」として取り上げられたものです。閲覧数は半年で1,400ほどにもなり、これを引用した論文もすでに複数発表されています」と、産業界・研究分野両方へのインパクトの大きさを黄教授は強調する。

 原子一層のグラフェンは光(可視光)の透過率が97.7%とほぼ透明だ。またレアメタルなどの金属を使わないため安価で価格変動も少ない。さらには軽くてタフな素材である。透明アンテナ研究のきっかけは、グラフェンの特徴を生かした応用先を探していた時に、電波工学や電磁工学を専門にしている電気電子工学科の橋本修教授、須賀良介助教とデバイス応用の話になったことだという。専門を超えた交流から生まれた研究の芽が、今や産業界にも注目されるまでに成長しつつある。

「これからの社会はIoT*が加速します。あちこちにセンサーやアンテナが組み込まれることを考えると、透明なものが透明なままでいられること、アンテナがあることによって外観を損ねないことはとても重要です。またアンテナは一番外側に設置されることが多いですから耐久性も求められます。グラフェンを用いた透明アンテナは、これからの社会にとって大きな可能性を秘めた素材であると断言できます」と黄教授は胸を張る。

 グラフェンは、透明アンテナに限らず様々な応用が期待されているようだ。「炭素のみでできているグラフェンは生体親和性が高い、ということでバイオ分野と連携した研究を少しずつ進めています。例えば表面に様々なものを付着させることができるというグラフェンの特性を生かして酵素を付加することで、生体内のブドウ糖を用いて発電する、バイオ電池を作るという研究を進めています。また、ある条件下で増減する特定のタンパク質(バイオマーカー)とだけ反応するレセプター分子をグラフェンにつけることで、疾病を早期発見できるようなセンサーを作ることもできるかもしれません」と黄教授は話す。

研究室では、グラフェン+αを考えることで研究の広がりを作ろうと日々試行錯誤を繰り返している。この広がりに欠かせないのが、他分野との連携だ。「人と違う視点を求めると、研究分野や学科の範疇を超えることもしばしばあります。垣根を恐れず飛び越える、というのが私たちのモットーです。専門やステージにとらわれず「面白い!」「すごい!」というテーマがあればアイデア優先で研究を進めていきたいと常に思っています」と黄教授は意欲的である。
 

研究力向上と人材輩出による社会との接点を拡大

 近年、大学の理系分野での研究力低下が叫ばれることが多いが、「大切なのは研究成果だけではない」と黄教授は話す。「高いレベルの研究を進める中で『人が育つ』ということがとても重要だと思っています。青山学院創立140周年の2014年に策定された『AOYAMA VISION』にもある通り、本学はサーバント・リーダーを育てることを目指しています。高いレベルの研究を通して専門分野での知見を持ち、社会に出てからは人と技術、社会と技術、さらには人と人をつなぐという奉仕するためのリーダーを輩出する、というところに責任があると思っています。しっかり時代の流れにアンテナを張って、物事を多様に繋げられるセンスを持つ人を育てたいですね」。

 また、今年4月に全学的な視野に立った青山学院大学統合研究機構を設置し、学長をトップとした大学全体の研究活動の枠組みを構築している。この組織は学内資金による運営を行う総合研究所と、外部資金による運営を行う総合プロジェクト研究所の2本柱から構成されている。

透明アンテナの素材となるグラフェンの分子モデルを手に

「統合研究機構という枠組みを作ったことで大学での研究活動が見えやすい形になり、大学外部との接点を作りやすくなったのではと考えています。また、これとは別に大学全体として産学連携を進めるための『リエゾンプロジェクト』を設置し、昨年から活動を始めました。私は統合研究機構の総合プロジェクト研究所の所長と、リエゾンプロジェクトでも教員メンバーのリーダーを務めていますが、様々な形で社会との接点を増やし、研究力拡大だけでなく大学外へのアピール力も向上させることで、大学の存在意義をより高めていければと考えています」。 

*IoT・・・Internet of Thingsの略。あらゆる物がインターネットを通じてつながることによって実現する新たなサービス、ビジネスモデル、またはそれを可能とする要素技術の総称。


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