2017年1月18日~20日に東京ビッグサイトで開催された第9回 [国際] カーエレクトロニクス技術展に出展した図研は、オートインサイト代表で技術ジャーナリストの鶴原吉郎氏を招き、「『電動化』『知能化』で品質を効率よく作り込む開発手法とは?」と題する特別セッションを開催した。ステージには、図研 オートモーティブ&マシナリー事業部長の早乙女幸一氏も登壇し、世界的なクルマ産業の動向や課題について意見を交換した。
世界のクルマ産業は「電動化」と「知能化」が加速すると予測
早乙女:世界のクルマ産業と技術に精通されている鶴原さんから見て、今後のクルマはどのような進化を遂げていくとお考えでしょうか。
早乙女 幸一 氏
鶴原:私は二つのトレンドがあると思います。一つは「電動化」。もう一つは「知能化」です。まず「電動化」では、米国テスラモーターズのモデル3が予約開始から二週間で40万台を超えるバックオーダーを抱えるほどの人気を集め、2017年末から生産が開始されます。
また日産自動車の電気自動車(EV)リーフも、来年にかけてモデルチェンジすると言われていて、航続距離は500km以上に伸びると予測されています。そうなると、日本でもEVが普及してくると考えています。さらに欧州や中国でもEVが普及する兆しが出ていて、2040年には世界の新車の35%がEVになるという予測もあります。
技術ジャーナリスト 鶴原 吉郎 氏
早乙女:それは興味深い予測ですね。もう一つの「知能化」とは何でしょうか。
鶴原:「知能化」で、いま最も注目を集めているのが自動運転技術です。2040年ごろには、人間の操作をまったく必要としない完全自動運転車が、世界の新車販売に占める比率で半分を超えるという予測もあります。自動運転車には、GPSシステムにミリ波レーダー、レーザーレーダー、カメラなど、数多くのセンサーが搭載されることになるでしょう。
早乙女:今後のクルマの「電動化」と「知能化」は、クルマを設計していく上でも大きな変化をもたらしつつあるとお考えでしょうか。
鶴原:これらのトレンドは、いずれも車載システムの複雑化をもたらします。「電動化」では、電力系配線が増大し、ECU(電子制御ユニット)も増えます。さらにエアコンやブレーキなどの装備も電動化します。また「知能化」でも、多数のセンサーからの信号を伝達する配線や、得られるデータを処理する電子制御ユニット(ECU)が増え、信頼性向上のためにシステムの冗長化なども必要になってきます。
これまでのクルマメーカーが体験したことのない設計が求められる時代に
早乙女:鶴原さんの指摘する「システムの複雑化」とは、どのように進んでいくのでしょうか。
鶴原:7〜8年前には車載システムの組み込みソフトウェアのコードの行数が、1000万行になったと聞いて驚いていましたが、現在の高級車では1億行に達している車種も現れています。車載マイコンの進化を見ても、90年代は8〜16ビットが主流でしたが、現在は64ビットのものが登場し、その動作周波数も1GHzに近づき、マルチコアのものも増えてきています。おそらく、自動運転車の時代には動作周波数もコア数も、さらに高性能になり、コードも2億行を超えるでしょう。そうなると、車載システムのエレクトロニクス設計やクルマ電装にワイヤハーネスの設計などは、複雑さを増すと思います。
早乙女:仰る通りです。カーエレクトロニクスの世界では、これまでのクルマメーカーが体験したことのない設計が求められる時代になると、我々も認識しています。そこで、そうした課題を解決するためのチャレンジとして、我々は様々なソリューションを提供しています。
鶴原:それは興味深いお話ですね。具体的には、どのようなソリューションがあるのでしょうか。
早乙女:これからのカーエレクトロニクスは、高速画像処理や高速微細信号を車体の内部に発生する強電系の中で、正確に伝送するための回路設計が求められます。それに対応するには、最先端のエレクトロニクス製品と同様、もしくはそれ以上に半導体の協調設計や三次元設計などの高度な設計ソリューションを必要とします。Q(品質)C(コスト)D(納期)要件を高いレベルで満たしていく必要性が高まっています。そうした背景からも、設計段階でのシグナル・インテグリティ(SI)、EMC(電磁両立性)、熱といった課題への取り組みが一層重要視されています。
鶴原:確かに、「知能化」する先進運転支援システム(ADAS)などは、故障しては困るシステムです。高密度化し高速化すると、ノイズ対策など機能の安全性が重要視されてきます。開発段階においても、クルマの機能安全規格「ISO 26262」を満たすなど、コンセプトの段階で想定外をなくす努力が求められています。
早乙女:我々も、先進的な車載機器メーカーと共同で、次世代の自動運転技術向けのプロジェクトを推進しています。このプロジェクトでは、画像処理の制御やECUの設計も行っています。こうしたプロジェクトのノウハウも、我々の開発陣にフィードバックされて、より使いやすいオートモーティブE/Eデザイン・ソリューションとして、提供していきます。
「つながる」を超えるBeyond Connectingが未来のクルマづくりを革新する
早乙女:もう一つ、我々がクルマの電装やワイヤハーネス設計に携わっている方々にお伝えしたいのは、これからのクルマづくりにおける「堅牢性」や「コスト」、「重量」などの改善にとって、増加する車載電装システムの配置・配線を最適化することの必要性です。
今後より一層高度化が見込まれるクルマの電装システムにおいて、要求や機能を十分に掌握した上での電装開発を実現するMBSE(モデルベースシステムズエンジニアリング)が重要と言えるでしょう。
*MBSE:「製品やサービスなどのシステムの開発を成功に導く」ことを目的として、システム開発の全体最適を図るための技法、そのためのプロセスを定義しています。
鶴原:なるほど。かつてのワイヤハーネスは、最後に余ったスペースになんとか収める、という設計例が数多くありました。しかし、現在は高級車のハーネスが50kgを超えるほどになっているので、電装部品の設計を開発段階からしっかり行っておかなければ、コストや重量だけではなく、システムの堅牢性にも大きな影響を与えてしまいますね。
早乙女:その通りです。クルマメーカーにとっては、車体をもっと軽くして、燃費も向上させると同時に、製造コストを安くしながらシステムの堅牢性や信頼性も強化していかなければなりません。そうした課題を解決するための一助として、設計の段階からしっかりと複合システムの複雑さを検証し、問題を解消できるオートモーティブE/Eデザイン・ソリューションが重要になるのです。
鶴原:なるほど、これからのクルマづくりは、「つながる」を超えるBeyond Connectingが重要ですね。図研の提供するソリューションに期待しています。今日はありがとうございました。
<鶴原's EYE>
これまではECUのチップ性能やセンサーなどのデバイスが、クルマの性能を左右する重要な要素だと思っていました。 しかし、「電動化」や「知能化」が進む次世代のクルマにとって、ECU内部の配線設計や、チップとセンサーをつなぐ車内の配線設計も非常に重要であることを再認識しました。 進化するクルマづくりをサポートするオートモーティブE/Eデザイン・ソリューションの現状についてもよくわかりました。
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鶴原吉郎氏 プロフィール
1985年 日経マグロウヒル社(現在の日経BP社)に入社。 新素材技術誌記者、機械技術誌編集長。 2004年、日本で初めてのクルマエンジニア向け専門誌「日経Automotive Technology」の創刊に携わる。 2004年6月の同誌創刊と同時に編集長に就任。 2014年3月に日経BP社を退社。 2014年5月にクルマ技術・産業に関するコンテンツの編集・制作を専門とするオートインサイト株式会社を設立、代表に就任。 日経BP未来研究所客員研究員。
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