グループウェア大手のサイボウズは、時間と場所にとらわれない働き方や、復職を前提とした退職制度“育自分休暇制度”など、ユニークな制度を積極的に導入している。

 制度拡充のきっかけは、離職率が28%(2008年)にも達したこと。貴重な人材を手放してしまわないために、どんな人にも働きやすい会社作りを進めてきた。その結果、経済産業主催の「ダイバーシティ経営企業100選」(2014年)に選出され、Global Place to Work institute Japanが実施した「2016年版日本における『働きがいのある会社』ランキング(従業員100から999名部門)」(2016年)で3位にランクインするなど働き方改革の先端企業として注目されるようになった。

 同社の改革を牽引してきたのは、社長の青野慶久氏だ。青野氏は1971年生まれ、愛媛県今治市出身。大学卒業後、松下電器産業(現在のパナソニック)を経て1997年に愛媛県松山市にサイボウズを設立した。数々のヒット商品を手がけた後、2005年に社長に就任している。

 青野氏は“イクメン”の先駆け的存在でもある。これまでに3度、育児休業を取得している。その際、働く時間が限られているとその分、集中して働けることに気づいたという。

なぜ「保育園落ちた日本死ね」なのか

 青野氏が総務省内の「ワークスタイル変革プロジェクト」に外部アドバイザーとして参加した折、総務省の官僚に「本気でやるつもりがあるんでしょうか」と問いただしたのは2015年春のことだった。

「本気じゃないなら、忙しいので私はもう出席しません。本気かどうかを確認したいです」

 担当者が現実を直視していない、取り組みへの覚悟が不十分だと感じたことから発せられたその発言は、瞬く間にニュースとなって広がった。

 青野氏は日本人の働き方、生き方に疑問を感じ、改革を進めたいと考えている。総務官僚に対する発言は、その真剣さの発露だった。

 その約1年後、『保育園落ちた日本死ね!!!』というタイトルの匿名ブログが話題になった。

 過激なタイトルのそのブログには、少子高齢化社会の到来を前に叫ばれる“一億総活躍社会”に貢献したくても、保育園に子供を預けられず、働けないことへの怒りが綴られていた。

 こういった働き方や生き方に関する問題に対して、青野氏は一企業の経営者という立場を超えて積極的な発言を繰り返している。
 

会社で時間を過ごすことだけが「働く」ではない

 たとえば「働く」ということについて。

「働きがいのある会社」として上位に位置づけられることはありがたい、とする一方で、《「働く」とは、会社の業務をやることだけではない。お金のやり取りがなくても、たくさんの「働く」がある》としている。(《》内は青野氏のブログから引用、以下同)

 その原体験は、青野氏の幼少期にあった。農業をしていた祖父母は朝、一緒に畑仕事に出かけていく。そして夕方になると祖母だけが一足先に帰宅して、食事の用意をし、時間差で帰ってきた祖父と一緒に食事をしていたという。このときは畑仕事も食事の用意もどちらも等価な「働く」ことだった。

 ところが、会社という仕組みが普及し「働く」が会社の業務を指すようになってから、家での食事の用意や育児は「働く」の範疇から外れてしまった。

 青野氏は《お金の流動を生まない家事や育児が軽んじられて少子化を引き起こし、それが会社の経済活動の大きな足かせになっているという皮肉な現実があります》と分析している。もしも家事や育児がかつてのように「働く」こととして評価されていれば、ここまで極端な少子化は起こらなかったというのだ。

 また、青野氏は夫婦別姓を唱えている。青野氏がそう提案するようになった理由も興味深い。青野氏は結婚して、配偶者の姓を名乗ることになった。そのときのエピソードである。

《私は結婚して姓を変更したので、銀行口座・クレジットカード・免許証・健康保険証・パスポート・マイレージカード(変えないとポイントが付かない)・病院の診察券・図書館の会員カードのなどの名前変更コストを払いました。財布とカード入れに入っているカードほぼすべてが対象です。そして、新姓の印鑑の作成、株式の名義変更(場合によっては多額の費用が発生)、病院などで「西端さーん」と呼ばれて反応できるようになる訓練、出張するとき先方に「飛行機やホテルの予約は青野じゃなくて西端でお願いします」と伝える手間、子供に「お父さんは会社では青野だけど保育園では西端なんだよ」と説明するコスト、「どうして苗字を変えたの? 養子?」という質問に答えるコストを払い、精神的苦痛を感じながら生きてます》

 これらのコストを不要にするため、夫婦別姓が望ましいというわけだ。
 

「働く」ことの優先度を上げ過ぎてはいけない

 こうした提案は、女性だけにメリットをもたらすものではない。男性にとっても働き方や生き方の選択肢が広がることになる。

 例えば、突然、親の介護や自分の健康の問題が生じる可能性は十分に考えられる。仕事以外に取り組みたいことが見つかる人もいるだろう。そうなった場合、従来のように平日は毎日8時間、またはそれ以上を会社で過ごすという働き方はできなくなる。

 青野氏は、社員はそれを見越して人生設計をすべきだし、会社もそれを許容し、むしろ推進すべき仕組みを用意すべきだと考えている。

《人間が幸福に生きることを目的とするならば、「働く」ことの優先度を上げ過ぎてはいけない。あくまでも人間が幸福に生きる手段として「働く」を位置付けるべき。だから、「働きがいのある会社」よりも「生きがいのある会社」の方が素晴らしい。どうすれば生きがいのある会社を作れるのか。生きがいのある家庭を作れるのか。生きがいのある地域を作れるのか。それを考えた方が、人類にとって生産的だと思うのです》

 それが、それぞれの事情を抱えた人たちが無理なく共存するために必要な考え方なのだ。

 サイボウズは11月9日から10日まで幕張メッセで、12月6日にはグランフロント大阪コングレコンベンションセンターで、毎年恒例となった総合イベント『Cybozu Days』を開催する。今年のテーマは“共に生きる”だ。

Cybouzu Days11月9日~10日に幕張メッセ、12月6日にグランフロント大阪コングレコンベンションセンターで開催予定

 両会場で青野氏の基調講演が行われるほか、東京会場では、「ワクワク大作戦」「ハッピー大作戦」などユニークなスローガンを掲げて箱根駅伝2連覇を達成した青山学院大学陸上競技部長距離ブロック監督の原晋氏や、トースターというどこの家にもある家電をコンセプトから作り替えて大ヒットさせたバルミューダ社長の寺尾玄氏、マンゴーの県として宮崎県の知名度を上げ、知事を引退後も幅広く活躍する東国原英夫氏らを講師に招き、様々な背景を持った人たちが共に生きるチームになるための方策を示す。

 働きがい、そして生きがいのある人生設計のヒントが数多く得られるイベントになることだろう。

働き方、生き方を見つめなおすきっかけになるイベント
「Cybozu Days 2016」参加お申込みはこちらから>>

 

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