「良心」によって立つ人物を養成するという理念のもと、明治を代表する教育家・新島襄によって設立された同志社大学。「自由主義」「キリスト教主義」「国際主義」を掲げ、国際派大学の先頭を走ってきた。
しかし変わりゆく国際社会の中で独自の存在感を放ち続けるのは容易ではない。これからの社会でどのように独自性を追求していくか。
新たに学長の職に就いた松岡敬学長に話を聞いた。
二つのキャンパスから発信する、新たな学問の広がり
同志社大学は、141年の伝統を誇る今出川校地と、広大な敷地に最新の施設を持つ京田辺校地の二つの校地を有する。
松岡学長は両キャンパスを経験しつつ、京田辺キャンパスに拠点を置く学部から選任された初めての学長だ。
「伝統の今出川と、革新の京田辺。両キャンパスの位置づけを明確にしながら、文理融合を推進していきたい」と抱負を語る。
京田辺キャンパスのある場所は関西文化学術研究都市のけいはんな。関西エリア全体にとって重要な地域である。このエリアの持つ温故知新の特殊性を、学術面にも及ぼしていこうという意欲だ。
「教授という者は従来、個人経営の店主のようなもので、それぞれの専門分野を深く追求していくことが重要だった。しかし今の社会では、専門の深さだけでなく総合力も重要だ」
「そこで、二つのキャンパス間で連携し、共同研究で学際領域に立ち向かっていきたいと考えている。連携を進めることで、学生の研究テーマも広がる。新しい研究領域を作るイノベーションが起こりやすくなる」
例えば2008年に新しく開設した「赤ちゃん学研究センター」も、新しい学問分野の一つだ。
「赤ちゃん学とはいったい何か?胎児から新生児・乳児・幼児を総合的に研究する分野だ。情報工学や小児医学、脳科学、生命科学のみならず、哲学、心理学など、多領域から赤ちゃんの問題をとらえていく。しかし取り組む課題は赤ちゃんにかかわることだけではない。人工知能、発達障害など、世の中全体の課題に関係してくる。赤ちゃんを研究することで人間の本質を探ろうとしている学問だ。こうして違った分野がどんどん広がっていく」
既存の分野との接合を繰り返しながら発展していく学際領域分野は、変化の激しい社会に対応するために欠かせない。
「社会が何を求めているかを考えながら、人物を育成していきたい」と松岡学長は語る。
「京都とグローバルを、教育を接点としてつなげる」
同志社大学・今出川キャンパスは、京都の中心部、京都御所のすぐ隣にある。
「京都にあることで発信できることは、とても多い」と松岡学長。
日本の伝統文化の中心として長い歴史を誇る京都。注目する者は国内外を問わない。今後は文化庁の移転が計画される中で、「世界につながる基盤はできている」。
同志社大学は、幕末に鎖国の禁を破って留学した新島襄が創立した大学だ。国際派大学として、グローバル教育に関しても先端を走り続けている。
グローバル地域文化学部をはじめとした幅広い国際的な専攻を有すると同時に、海外の名だたる協定大学の教育を取り入れ留学生とともに学ぶ交流プログラムがある。また、在学中に留学を経験する学生も多い。
「文化を比較することによって得られるものは多い」
価値観の違う世界に入ることによって、その人の秘めた可能性が発掘される。幕末に鎖国の禁を破って留学した新島襄もそうだ。異文化の中に身を置くことによってチャンスをつかんできた。学生たちにもそういったチャンスを作ってあげたいと松岡学長は語る。
「京都とグローバルを、教育を接点としてつなげたい」という松岡学長。
その目標のためには、大学・社会を越えた分野横断的な思考が欠かせない。
例えばプロジェクト科目では、14学部の学生が学部の枠を越えて履修することができ、企業やコミュニティと連携して現場経験をする。内容も、イベントの運営、文化研究と多彩だ。
また、京都の文化を発信していく上では、科学技術と文化の融合も今後の課題だ。ローム・京セラ・任天堂など、技術のプラットフォームに乗せて文化を発信してきた大企業が集う京都で、技術と文化の融合を教育分野にも浸透させていく意義は大きい。
「科学技術を取り入れた文化発信」を担う大学として、京都という地の利、グローバル教育の実践的蓄積というふたつの特色を持った同志社大学だからこそ出来ることは多い。
「良心を大切にしてほしい」
同志社大学の建学の精神として、「良心」教育が挙げられる。
「人物育成にあたって最も大切なことは良心教育だ」と松岡学長は力を込める。
「経験していないことに直面したときにも、人は判断しなければならない。そのときには情報収集ももちろんするが、最後の判断基準となるのは、良心なのではないか」
「良心という概念を表現するのは難しいが、自分だけではなく、相手の心を意識しながら考えるということ。これは人生をかけて学ぶことだが、卒業後の人生においても学生時代に培った良心をもって充実した人生を歩んでほしい」という。
「教育とは、ただ専門性を高めるだけではない。根底に良心を持った人間性の上に専門性を高めていくことだ。そのためには幅広いコミュニケーションの経験をすることや、柔軟性を持つこと、相手の気持ちを感じ取ることが必要だ」
新しい学問と、人間の本質。普遍の中にある新たな取り組みに、変革の時代に向き合う期待と覚悟が見えた。
<取材後記>
眺望の良い京田辺キャンパスに初めて足を運び、緑に囲まれた静謐さの中に、伝統と新しさの融合を感じた。
大学のキャンパスという「静」の場所の上に、いかに「動」的な学びの活動を仕掛けていくか。学びをいかに有機的につないでいくか。京都とグローバル、文化と技術、古きものと新しきものの間に、同志社大学の果たす役割は大きい。
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