数字への過剰反応が
データの活用を阻む
――実際にはどこから始めればいいのでしょうか。
西内 今の一番の課題は、データはあっても、どうして良いのか分からないことです。肝心なのは、データからどんな価値を引き出すかですが、そのためには前提として戦略が求められます。それがあって初めてどのようにデータを活用して、勝つための情報にすべきかが見えてきます。
しかし現実には、企業では、ビジネスインテリジェンス(BI)ツールを導入したものの、使いこなせず置き物になってしまっているケースも少なくない。そこに期待と現実とのギャップがあると思います。
高橋 分析ツールへの期待が高いのは非常に光栄なことなのですが、ツールが支援できることとできないことを正しく理解しておくことも重要な点ですね。分析ツール自体は常に進化を続けていますが、現状は高度なデータ処理や複雑な解析処理を高速に行う道具であって、人間が何をすればいいかといった答えまで生み出してくれるものではありません。
西内 ツールだけではなくて、数字そのものに対しても過度な期待をする人と、数字には頼ろうとしない人とで二極化している気がします。その中間が丁度いいと思いますけどね(笑)。
高橋 数字に対する反応は立場や環境によっても異なります。例えば、金融業でヒューマンチャネルを担当している方などは目の前にいるお客様との瞬間、瞬間が全てですから、確率論的にマクロに状況を捉える意識は希薄になり、白か黒かの議論になりがちです。
この方は40%の確率で優良顧客になりそうだが、先ほどの方は50%と予測される。まずは先ほどの方の対応を優先しよう、とはなかなかなりません(笑)。
西内 そもそも数字が“比べる”ためにあることを理解することが重要なのではないでしょうか。 “儲かる”といっても、100円儲かるのか、1億円儲かるのかでは、まったく意味が違ってきます。実際にはもっと複雑で、コストやリスクなども含めて、数字にして比べることができるようになって、初めて経営に活かせるのではないでしょうか。
企業が投資に見合った
成果を得るためには
――今後、統計をどう企業活動に活かしていくべきでしょうか。
西内 SNSなど様々なデータが注目を集めていますが、目的もなくデータを幅広く収集して分析しても、投資に見合った成果はなかなか得られないと思います。情報を活用するためには、ゴールを設定することが大事です。ゴールから逆算して統計的に考えた方が投資対効果は大きくなります。
高橋 統計を経営に活かす「アナリティクス」が重要だと考えています。ITが進化したことで、大量のデータを分析して、アナリティクスを実践する環境が整ってきました。SASは従来のBIツールと違って、このアナリティクスの領域までカバーしています。だからこそ大きなメリットを提供できるのです。
西内 大きなビジネスにアナリティクスを活用してほしいですね。統計学を駆使することで、1割以下の改善プランはすぐにでも立てられることができると思います。売上が1億円であれば500万円の増加ですが、100億円なら5億円の増加が期待できます。その方が経営へのインパクトは大きくなります。
高橋 これまで統計ができる人のフィールドは開発や研究などに限定されてきました。しかし、今はアナリティクスの広がりによって、統計自体がビジネスの領域で幅広く使われるようになってきています。そこでは人やツールにどう投資していくのかという判断が大事です。
当社のユーザーの先進的な事例を含めて、具体的な使い方を提案していきたいと思います。アナリティクスは、分析した結果を設定したゴールに到達するために業務に落とすことが肝要です。当社として、そこまで支援していきたいですね。
西内 経営者の方には、統計の力を是非理解してほしいと思います。ビジネスに貢献できるデータはすでに企業活動の中で蓄積されています。重要なのはこうしたデータをどう活用するかです。統計をやってきた人間を側において、グラフの意味を聞くようなことをするだけでも、データへの興味が深まるはずです。
アナリティクスを取り入れることは、日本のビジネスの底上げにつながります。人とツールをうまく活用して、アナリティクスを実践する企業が増えることを期待しています。