米国の景気回復は国内総生産(GDP)の7割を占め、年間10兆ドル(約950兆円)に上る個人消費の動向にかかっていると言ってよいだろう。今、その個人消費に歴史的な地殻変動が起きている。
米南部ノースカロライナ州を代表する都市シャーロット。その東側に位置する大型小売施設「イーストランドモール」は、テナントが抜けた跡があちらこちらで目につく。明かりが消え、人気のないスペースには寂寥感が漂う。残された中核テナントの1つ、大手百貨店シアーズの店内にも「閉店セール」のポスターが貼り出された。ここも6月14日で店をたたむ予定だ。
米紙ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)は最近、イーストランドのような全米に広がる「幽霊モール」の特集を組んだ。買い物客の激減でテナントが撤退し、立ち行かなくなるモールは、今年末までに100カ所を超える恐れがあるという。同紙によると、シアーズは5~6月にモール入居店舗など23カ所を閉める。
消費におカネが回らなくなった米経済の異変は、関連する統計に鮮明に表れている。
ニューヨーク株式市場のダウ工業株30種平均は「景気は底を打った」との見方から、8000ドルの大台を回復していたが、5月13日に冷や水を浴びせられた。この日朝発表された4月の小売売上高が、市場予想に反して2カ月連続の前月比マイナスとなったからだ。前年同月比では実に10.1%も減少している。
その内訳を見ると、幽霊モールの増加もうなずける。衣料・装飾品が6.5%の大幅マイナスとなったほか、家具類は冷え切った住宅市場を反映して14.2%もダウンした。
更にひどかったのが自動車販売。23.0%減を記録し、4分の1の需要がわずか1年間で消えた計算になる。ビッグ3にとどまらず、日本メーカーも米国の新車市場の急激な縮小に苦闘している背景が読み取れる。
書店寄らずに図書館、コーク止めて水飲もう
消費は長年、米国の豊かさの象徴とされてきた。それが変調を来す一方で、国民の間で急速に支持を広げているのが節約・倹約だ。
「ランチは自宅から弁当を持っていく。いつも素敵な弁当ではないけれど、節約効果は大きい」
「着ない服はチャリティーに寄付する。新しい服は買わず、今持っている服を着る」
ニューヨーク・タイムズ紙がウェブサイトに設けた「サバイバル戦略」のブログには、読者から寄せられた「大不況を生き抜くアイデア」が連日満載されている。そのほとんどは、節約あの手この手の紹介だ。
この中の「アマゾン、ボーダーズ、バーンズ・アンド・ノーブルを減らし、もっと公立図書館に行く」という知恵には、少し説明が必要かもしれない。アマゾンの後の2つは、立ち寄るとつい何か買ってしまいがちな大手書店チェーンの名前だ。
今、「節約ブーム」は身の回りの日用品から高額商品、そしてモノだけでなくサービスにまで及んでおり、その影響はそのまま関連ビジネスに跳ね返っている。
米国では「水代わり」と言える国民飲料コカ・コーラの1-3月期決算は、13億4800万ドルの純利益を確保したものの、前年同期比では10%もの大幅減益となった。出荷数量がインドで31%、中国で10%も伸びる半面、肝心の北米が2%落ち込んだことが響いた。小売店向けに限れば、北米は4%もの大幅マイナス。先に紹介したブログにも、「水を飲む。健康にいいし、タダだ」という投稿があった。