電通グループが、企業のDX支援に力を入れている。DX支援に関わるコンサルタントを拡充するとともに、DX支援事業を手掛ける「カスタマートランスフォーメーション&テクノロジー領域(CT&T領域)」の連結売上総利益に占める割合を、現在の約30%から将来的に50%に引き上げることを視野に入れているという。広告を出自とする同グループが、なぜDX支援に力を入れるのか。グループ全体のDXコンサルティング事業を束ねるdentsu Japan 執行役員 BX/DXコンサルティング統括※1の佐野傑氏と、㈱電通 トランスフォーメーション・プロデュース局エグゼクティブDXディレクターの加藤剛輔氏に聞いた。
(※1)佐野氏は2024年1月よりdentsu Japan CEO 兼 ㈱電通 代表取締役 社長執行役員に就任予定
DX 支援に力を入れる姿勢が鮮明に表れた中期経営計画
――電通グループでは、日本企業のDXの現状をどう捉え、そこにどう貢献できると考えてDX支援に力を入れているのでしょうか。
佐野傑氏(以下敬称略) 日本企業のDXは変革の1周目が終わり、2周目に入ったと感じています。新型コロナウイルス感染症の影響などでリモートワークやD2C(Direct to Consumer)が普及し、デジタル化が加速しました。これはDXの1周目であり、2周目に入った今、企業はそこからいかにトランスフォーメーション(変革)を起こせるか、中でもビジネス・事業でそれを実現できるか、悩みが深まっているのではないでしょうか。DXを「やってみる」から「結果を出す」のフェーズに移ったとも言えます。
その中で成功のポイントは3つあると考えています。まずは中長期で、例えば2030年頃をイメージし、事業を通じてどんな価値を世の中や顧客に提供したいか、社会でどんな存在になるかを考え、そのために必要な変革やビジネス転換の戦略を立て、具体的な活動・行動につなげていくことです。現状はこの部分で試行錯誤している企業が多い印象です。
2つ目のポイントは、上記の戦略や活動に合わせて顧客体験を変革していくこと、つまり社会やテクノロジーの動向を先読みしながら顧客との関係を作ることです。さらに3つ目として、顧客だけでなく、社内に変革を浸透させることも重要であり、それを実現するための組織風土改革を進め、社員の熱量を高めることが求められます。
この3つを通じて、2周目のテーマである「結果を出す」こと、つまり事業成長を実現させなければなりません。まとめると、生活者から顧客、社内人材、外部のステークホルダーまで、全ての人が「どうしたら動くのか」を考え、事業の成長も見ながら変革を進めることが必要になるでしょう。
電通グループは、生活者や顧客に寄り添い、人々の心を動かすことで新しい価値を提供してきました。だからこそDXでも人が動き、事業を動かすことを強みに、企業のDX支援に貢献できると考えてこの領域に力を入れています。
加藤剛輔氏(以下敬称略) DX支援に関わる人材育成や採用も手厚く行っており、国内電通グループ(dentsu Japan)のコンサルタント数は直近2年で倍増し、1000名を超える体制となりました。エンジニアも4000名以上に拡大しています。
――中期経営計画にもDX支援に力を入れる姿勢が鮮明に表れています。DX支援に関連する「CT&T領域」の事業について、連結売上総利益に占める割合を、2020年度の約28%から将来的に50%に引き上げると発表されました。「CT&T領域」の事業とはどのようなことを行うのでしょうか。
佐野 クライアントのビジネスを見ると、生活者のデジタルシフトに対応すべく、大きな変化が起きています。生活者や顧客を徹底的に理解し、革新的かつパーソナライズされた顧客体験を実現していくことが重要であり、データマネジメントやテクノロジープラットフォームといったテクノロジーを活用しながら、組織体制を整備し、業務を実行することが必要になります。そうして事業を統合的に変革・マネジメントし、顧客のエンゲージメント強化とクライアントの事業成長を両立していくのがCT&T領域と言えます。
――広告やマーケティングとは別領域ということでしょうか。
加藤 広告・マーケティングは、CT&Tを実現するための「手段の1つ」という表現が正しいと思います。顧客体験を高める上では広告に限らなくても良いし、一部分として広告を使うこともあるでしょう。領域を限定せず、戦略企画からシステム構築、データ分析、マーケティング、クリエーティブ、メディア、コンテンツまで、横断して統合的にマネジメントしていく形です。
クライアントは、顧客それぞれのニーズを的確に理解した上で、さまざまな手段の中から最適な体験に落とし込むことを求めています。広告に限らずデータ・プラットフォーム基盤とアウトプットの体験設計・実行を掛け合わせることや、データを基に生活者や顧客のユーザーを理解してクリエーティブを使ったアウトプットまでやり切ることは重要です。インフラの構築から戦略実行まで行うのは電通の優位性ではないでしょうか。