NEC 執行役 Corporate EVP 兼 CDO 兼 デジタルプラットフォームビジネスユニット長の吉崎敏文氏(撮影:酒井俊春)

 NECが日本企業のDX支援を本格化させている。鍵となるのは共通のDX支援基盤である「NDP(NEC Digital Platform)」と日本語に特化した生成AIだ。そこに独自のIoTデバイスを加え、コンサルティングからシステム設計、開発、実装、運用までを一気通貫で支える体制を整えている。4年の準備期間を経て、異色のアプローチとも言えるDX支援のアクセラレーターが動き出した。

4年前からDXを視野に変革に取り組んできた

――世界中の国際空港で、NECの生体認証を活用した旅行者サポートシステムが普及しつつあるそうですね。

吉崎 敏文/NEC 執行役 Corporate EVP 兼 CDO 兼 デジタルプラットフォームビジネスユニット長

2008年より日本IBM執行役員。退任後、2019年3月にNECに入社。NECの成長領域(生体認証・映像、AI、クラウド、セキュリティ等)の製品および事業変革を担当。2021年4月より執行役員常務として戦略コンサルティング、DXオファリングなど新組織を拡大。2023年6月より現職。

吉崎敏文氏(以下敬称略) チェックイン時に顔とパスポートを紐付けて登録することで、出入国から搭乗までの全てのステップをスムーズかつスピーディに処理することができるシステムです。旅行者に利便性を提供しながら、航空会社の生産性を劇的に向上させるDXを実現しています。

 現在(2023年11月時点)、世界約80カ所の空港に導入されるこの生体認証システムには、当社が提供するDX共通基盤であるNDP(NEC Digital Platform)のコンポーネント機能となっている顔認証システムを利用しています。再利用を前提とし、容易に実装できることが、普及を後押ししていると見ています。

 ただ、ここまでの道筋は簡単ではありませんでした。顔認証システムは当社が得意とする領域の1つですが、コンポーネント化には社内の組織の壁を超える必要がありました。当初は5つの顔認証方式と30の開発プロジェクトがあり、それらをまとめるのに2年もかかっています。

――吉崎さんは4年前(2019年)に日本IBMの執行役員を辞め、NECに移られました。その頃から改革は進められてきたのでしょうか。

吉崎 NECに来てすぐに、私は3つのプリンシパルを掲げました。ビジネスモデルの高度化、テクノロジーの選定、そしてDXを実行できる組織と人材です。当時のNECには、これらの部分に弱みがあると考えたためでした。

 特に組織は業種カット、テクノロジーカットなど縦割りになっていました。デジタルによって市場構造が急速に変わる中、かつての成功体験にとらわれていては価値が提供できなくなっています。これからの成長の鍵はDX事業であると考えました。

 2019年にDX支援の専任部隊を立ち上げてDX事業戦略を発表し、翌年にはNDPの提供を開始しました。Microsoft、Amazon Web Services、Oracleとの協業体制を確立し、2022年には当社のデータセンターとのダイレクトコネクトを含む密な連携を構築。その後もNDPへの機能集約を進めています。

 一方で2021年には、2025中期経営計画の中で、コンサル領域から実装力までを一体化した強み、優位性のある技術の共通基盤化などを含めたコアDX事業が、成長実現のためのキードライバーと位置付けられています。2023年8月には、コアDX事業を全社が成長するためのドライビングフォースとすることも発表されました。

 この間に、組織を大きく改編しています。2023年4月にはハードウェア、ソフトウェア、ネットワークの製品やサービスに加え、マーケティング、コンサルティング、デリバリーなどの部隊を全て一本化し、3万人を超えるエンジニア集団をデジタルプラットフォームビジネスユニットとして1つにまとめました。

共通基盤の整備とともにコンサルティングを強化

――改編により誕生したデジタルプラットフォームビジネスユニットについて教えてください。

吉崎 デジタルプラットフォームビジネスユニットの中核となるのは、共通基盤のNDPです。NDP は、SaaS(Software as a Service)など5層からなるレイヤーと、それらを支えるオペレーションとセキュリティツールで構成されます。

NDPのアーキテクチャ図。SaaS、PaaS(Platform as a Service)、IaaS(Infrastructure as a Service)、Network、Edgeの5層のレイヤーからなる部分は顧客に価値を届ける基となる「商材」、オペレーションとセキュリティは開発・実行基盤と運用・運営機能からなる「標準化アセット」というグループ分けになっている。
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 NDPというテクノロジーの共通基盤を活用し、クラウドやオンプレミス上で社会や企業のDXを支えていくことがコアDX事業の全体像です。2022年度のNDPの売上は前年度比で40%増加して赤字から黒字に転換しており、2025年度には2022年度の倍以上の売上を見込んでいます。

 当社の最大の差別化ポイントは、ITだけでなく、ネットワーク技術やエッジデバイスを持っていることです。1970年代から掲げてきた“C&C※1”というコンセプトを今でも大切にしています。組織が1つになったことで、仮想化もネットワークもフルレイヤーでカバーできる能力を最大限発揮できるようになりました。

※1「コンピュータ技術とコミュニケーション技術の融合」を意味する。1977年に、当時NECの会長だった小林宏治氏が提示した概念。

 これまでのスクラッチ開発※2から、オファリングビジネスへの転換を急速に進める中で、ビジネスモデル自体も大きく変化しています。それを象徴するのがコンサルティング部隊の育成と拡充です。

※2システムをゼロから開発すること。

 日本発のコンサルティングファームの大手であり、約7500人のコンサルタントを抱える関連会社のアビームコンサルティングとは別に、NEC本体内でコンサルタントの育成に取り組んでいます。その数はすでに500人を超えており、2025年に1000人まで増員することを目指しています。

 育成に当たっては、まず外部から7人のコンサルタントを採用しました。彼らを核に社内の人材をコンサルタントとして育て、独自のメソッドを磨いてきました。全体の約6割が社内の他部署からコンバートしたコンサルタントで、テクノロジーに強く、コンサルティング能力もあることが、DX事業の推進エンジンになっています。

 独自のコンサルティング部隊がアビームコンサルティングと密に連携するとともに、プロセスマイニングのパイオニアであるCelonis社とも戦略的協業を締結することで、さらなる付加価値の提供を目指しています。

 また、約120年の歴史の中で培った業種のノウハウや研究所の最先端のテクノロジーの活用においても、コンサルタントと連携することにより、お客様にとって付加価値のあるEnd to Endのサービス提供に繋がっています。