成功の鍵は「右脳と左脳の健全な綱引き」
――ご著書では、チームビルディング後のチーム論についても触れられています。そこでのポイントを教えてください。
井上 メンバーが集ったときに考えるべきこととして、「確信と確証を得る」という観点、「バリューデザイン・シンタックス」というオリジナルのフレームワーク、それを考察する方法の3段階について、本書で紹介しています。
成長している事業の分析を通じて、「右脳的な確信」と「左脳的な確証」という相反するものが同時に主張され、健全に綱引きされていることが多い、とわかっています。
「右脳的な確信」とは「あの人はこれが欲しいだろうな、お金を払ってくれるだろうな」という一人の顧客像が浮かんで、直感的に正しいと思えること。しかし、確信だけではキャズムを超えることができず、マスマーケットに届きにくいものです。
一方、「左脳的な確証」は市場性や競合優位性、利益率など数字やロジカルで語るものです。左脳的な考えだけで突き進むと、実際に新商品・新サービスをつくったあとに「これって誰が欲しがるの?」という疑問が出てきてしまうため、こちらも注意が必要です。
あらゆる組織の人が右脳と左脳、どちらかに偏っていますから、一人が引っ張ろうとしても上手くいきません。そこで「異能」の存在が必要になります。
ここで役立つのが、確信と確証の観点を20項目に落とし込んだフレームワーク「バリューデザイン・シンタックス」です。左脳型の人は左脳的な部分こそきれいに埋められますが、n1(一人の顧客)のような右脳的な部分を埋められません。逆に、n1は埋められるけど、競争優位は考えられない、という右脳型の人もいます。
ここでもやはり「無知の知」を把握することが重要です。「いま不足しているものは何か」をバリューデザイン・シンタックスで確認しながら補うことで、できるだけ早く最小単位の価値をつくること。このフレームワークを使うことで、新規事業に必要な考え方が自然と身に付くはずです。
また、バリューデザイン・シンタックスは、事業がピボットしてもすぐに対応できるメリットがあります。顧客が変われば課題が変わるし、求められる価値も変わるでしょう。そこで、バリューデザイン・シンタックスではストーリー立てた結合点を設けており、項目一つが変わるとストーリーに違和感が生じるようになっています。「顧客がピボットしたから課題を変えないといけない」とすぐに気づくことができるわけです。
――最後に読者に向けてメッセージをお願いします。
井上 日本は大企業に優秀な人材が多い傾向にあります。しかし、大企業では「異能の掛け算」の実践が難しいことも確かです。そこに気づいてもらうことで、組織として「異能の掛け算」に取り組んでいただきたいと強く思っています。そこから何かを生み出さなければ、日本を元気にすることはできません。
世の中に「価値創造のリテラシー」を増やしたいと思い、本書を書き上げました。本書を読んだ多くの方が気付きを得て、その気付きをもとに行動を起こす。そんな形でアクションできる人が一人でも増えると嬉しいですね。