技術、営業、資本など多くの部分で勝る伝統的な大企業が、なぜ新規参入の企業に市場を奪われていくのか。その背景には持続的イノベーションと破壊的イノベーションという2種類のイノベーションが存在する。ハーバード大学でイノベーション理論の大家であるクレイトン・クリステンセン教授に師事した関西学院大学の経営戦略研究科教授の玉田俊平太氏は、この2種類のイノベーションの性質の違いから、大企業が負けていく理由を解説する。

※本コンテンツは、2022年9月28日(水)に開催されたJBpress/JDIR主催「第14回DXフォーラム」の基調講演「破壊的新規事業の起こし方」の内容を採録したものです。

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伝統的な大企業が苦戦を強いられる理由

 関西学院大学経営戦略研究科教授の玉田俊平太氏は、事例の紹介から講演を始めた。伝統的な大企業の一例として、ニコンの映像事業部門の売り上げの推移を見ると、2013年の7500億円をピークに2021年には1500億円まで減少しており、実に8年間で6000億円の減収となっている。

 古くは戦艦大和の測距儀や、半導体のステッパー(「史上最も精密な機械」とも呼ばれた光学機器)を製造するなど、世界トップクラスの光学技術を有するニコンに何が起こったのか。「これはニコンの技術力が衰えた、という訳ではない」と玉田氏は指摘する。

 ニコンなどの歴史のある大企業には技術の蓄積や製造設備、確立された販売網などのいくつものメリットが存在しており、非常に高い競争力を持つ。しかし歴史を振り返ると、その伝統的な大企業が新規参入の企業に負けた事例がいくつか見られる。例えば、ハードディスクドライブや掘削機、鉄鋼などでは、基本的な設計思想(アーキテクチャ)が変わるタイミングで、新規参入企業がシェアを奪った。掘削機の場合、当時主流であったケーブル式に対して、現在工事現場などで使われる油圧式が登場すると、ケーブル式を扱っていた30社のうちわずか4社しか生き残れず、残りの26社は買収や倒産に追い込まれた。

 多くのメリットを持ち、高い競争力を誇る大企業になぜこのようなことが起こるのか。玉田氏は、「当初は投資の失敗や能力・資源の不足、貧困な事業計画などの経営判断の誤りが、競争に負けた原因だと一般に考えられていた」と語る。