「社員から良い案が出てこない」「デザイン思考を取り入れてもうまく行かない」など、業界問わず多くの経営者にとって、新しい価値の創造は喫緊の課題となっているのではないだろうか。デザイン思考をより言語化し教育する方法論である「Foresight Creation」の開発者であり、大阪大学フォーサイトの代表取締役を務める松波晴人氏に、新価値創造を成功に導く方法や人材育成の考え方、組織の在り方などについて聞いた。

※本コンテンツは、2022年9月28日(水)に開催されたJBpress/JDIR主催「第14回DXフォーラム」の特別講演3「新しい価値を生む方法論 Foresight Creationの組織における実践」の内容を採録したものです。

イノベーションとは新しい価値軸の100点を目指すこと

「新価値創造のゴールは、日本が生み出した価値を世界にスケールすること」。そう話すのは、新価値創造の研究活動と実践の第一人者である松波晴人氏だ。

 同氏は「新価値創造」のプロセスを次のように説明する。

「まずはどういった『価値』を提供するべきかを考え、次に、実現のために必要な『技術』を模索します。実現の可能性が見えてきたら、どのような『ビジネスモデル』で世の中に流通させるかを考えるのです」

 そもそも「価値」とは非常に曖昧なものである。主観的な側面も大きく「Aさんにとって価値があっても、Bさんにとっては無価値」という場合もしばしばある。それ前提として、松波氏は「価値とはお金を払ってもらえるものであり、人のためになるもの」だと定義する。さらに「『価値』と『仕様』は別物である」と続ける。

 ビデオデッキが登場したことでテレビ番組を家庭で録画できるようになった。これは「価値」ではなく「仕様」だという。ビデオデッキがもたらした価値は、「テレビ番組を鑑賞する時間をずらせるようになった」ことなのだ。新価値創造を行う時は、価値と仕様を混同せずに考えることが大切になってくる。

 今後、日本が世界に提供できる価値として、「個人の課題を解決する価値(心の平穏をもたらす)」と「社会課題を解決する価値」の2つに分類できるという。松波氏は、特に「社会課題を解決する価値」が今後、日本から世界へ提供できる価値になり得ると考えている。

「日本は世界に先んじて少子高齢化が進んでいます。これから社会システムを含めたさまざまな社会課題が生じるでしょう。それらはこの先、世界各国が直面する課題でもあります。今から課題を解決するための新しいサービスや事業をつくっておけば、後々、日本から世界にスケールできる価値となるのではないでしょうか」

 新しい価値創造の例として、最も分かりやすいのが「ウォークマン」である。

 昔も今も、ユーザが求めるオーディオの「価値」は「音質の良さ」である。しかし、ウォークマンは音質という観点から見れば、既存のオーディオ機器より優れているわけではない。「既存商品よりも『価値』の下がった商品を売り出すのか」、そんな議論が始まればウォークマンは世の中に生み出せない。また、同商品を発売する前に行われた市場調査の結果は、悲惨なものであったという。当時の人々にとって「外を歩きながら音楽を聴く」ことなど、想像もしない世界だったのだ。

 しかし、ウォークマンは驚くべきヒットを遂げた。ここに新しい価値創造の難しさがある。松波氏は「新しい価値を生むことは新しい文化をつくること」だと説明する。

「ウォークマンがヒットしたのは『音楽を聴きながら外を歩く』という新しい文化をつくり上げたからです。新しい価値創造とは、100点だったものを120点にすることではありません。100点だった価値軸のものが80点に下がるとしても、新しい価値軸をつくり、そこで100点を狙うことが『イノベーション』なのです」