市況の変化が加速する今、「新規事業の創出」はあらゆる企業の命題といえる。しかし、カリスマ的な天才を有していない企業は、どのようにして新たな事業を生み出せばよいのか。『異能の掛け算 新規事業のサイエンス』の著者、Sun Asterisk Business Design Pros. Division Manager 井上一鷹氏は、新たな価値創造に必要なのは「一人の天才」ではなく「異能のチーム」だと語る。新規事業を成功に導くための方法論やチームのつくり方について、同氏に話を聞いた。
新規事業の再現性を高める「異能」とは
――ご著書『異能の掛け算 新規事業のサイエンス』を発刊された背景について、教えてください。
井上一鷹氏(以下敬称略) 私は前職、メガネブランドを展開するジンズという会社に勤めており、眼鏡型ウェアラブルデバイス「JINS MEME」と会員制ワークスペースサービス「Think Lab」という2つの新規事業を手掛けました。全く違うテーマの事業であるにも関わらず、2つ目の事業では、事業の成否を分ける勘所に鼻が利くと感じていました。このことから「新規事業は再現性の塊なのではないか」と仮説を立てたことが、本書を出すきっかけになっています。
10年で400件超の新規事業を手掛けてきたSun Asteriskに入社した理由も、新規事業の「再現性」を紐解きたいと考えたからです。そして、400件を超える新規事業のデータをもとに、再現性のある方法論とチーム論についてまとめたものが本書『異能の掛け算』になります。
――本書では新規事業に必要な「異能」を、Biz人材・Tech人材・Creative人材(以下、B・T・C)という3種類の人材像に分けています。なぜ、これらの人材が必要なのでしょうか。
井上 新規事業を始めるにはB・T・Cすべての機能が必要です。Tech人材は「価値をつくる人」、Creative人材は「価値を顧客にとって意味のあるものにする人」、Biz人材は「価値を広く、長く届ける仕組みをつくる人」を指します。
B・T・Cを考える上での重要なポイントは2つです。
1つ目は、B・T・Cを「それぞれ違う人」に任せること。Biz人材は「事業」、Tech人材は「技術」、Creative人材は「顧客」というように、それぞれ使う「主語」が違います。事業・技術・顧客の3つの主語に対して、違う能力を持っている人がお互いに主張し合わなければ、新規事業を上手く回すことはできません。
2つ目は、「無知の知」を知ること。新規事業は既存事業と異なり、不確実なことが多いものです。だからこそ、「そもそも何がわからないのか」を理解する必要があります。しかし、一人では何がわからないのか、気づくことができません。無知の知に至るためには、自分と違う「能」を持った人と対話を行い、全く違う観点から気づきを得ることが重要です。