一般会計の総額92兆6000億円の2013年度予算案が決まった。予算規模が今年度より0.3%減ったということになっているが、1月に編成された補正予算で13兆円がすでに支出されているので、それと合計すると105兆円を超える史上最大規模だ。
安倍晋三首相の所信表明演説も「危機」という言葉が14回も出てくる割には、危機を克服する具体策がない。経済政策は日銀叩きとバラマキ財政だけで、TPP(環太平洋経済連携協定)にも原発再稼働にも言及しない。それどころか安倍氏の持論である憲法改正にも集団的自衛権にも触れなかった。
厄介な問題をすべて先送りする合理主義
この狙いは明確である。この夏の参議院選挙に向けて、摩擦を起こす政策はすべて先送りしているのだ。安倍氏は前の政権では、参院選に大敗したため退陣を迫られ、そのときの「ねじれ」がいまだに尾を引いている。それを解消して昔の自民党のような一党独裁に戻すことが彼の至上命令である。
それに失敗すると、政権基盤の弱い安倍氏に対して、また退陣要求が出てくるだろう。彼の得意な外交は票にならないし、公明党も憲法改正や集団的自衛権には反対しているので、当面は封印するのが賢明だ。
TPPについては、選挙中こそ「聖域なき関税撤廃なら反対」と言っていたが、政権についてからはほとんど言及しない。原発についても、原子力規制委員会の新安全基準ができる夏まではさわらない徹底した安全運転だ。
参院で過半数を取れば、そのあと最大3年間は選挙がないので、憲法改正も可能になる。長期政権を目指すなら、何も今わざわざ摩擦を起こす必要はない。票に影響するのは景気である。かつて小泉政権が5年以上も続いたのは、史上最長の景気回復が続いたからだ。安倍氏が何よりも「デフレ脱却」を強調するのも選挙のためだ。
安倍氏の激しい日銀バッシングで円安という効果はすでに出ており、バラマキ公共事業の分はGDP(国内総生産)も増える。夏までは「景気のいい感じ」は続くだろう。そのあと金利が上がっても財政がおかしくなっても、何とかなるだろう。彼の政策は「昔の自民党」への回帰だが、選挙対策という点では極めて合理的である。