(英フィナンシャル・タイムズ紙 2023年11月7日付)

1989年のベルリンの壁崩壊で世界は平和な時代に入ったはずだった・・・(写真:Alamy/アフロ)

「Things can only get better」(事態は良くなるしかない)は1990年代の賛歌のように感じた。

 ベルリンの壁崩壊から4年経った1993年にリリースされた曲は、アパルトヘイト(人種隔離政策)が終わり、民主主義が東欧に訪れ、平和が北アイルランドに訪れ、「オスロ合意」がイスラエル・パレスチナ紛争の終結を約束した10年間にとって完璧なサウンドトラックだった。

 1990年代には、時代の精神が和平の仲介者と民主主義者、国際主義者を後押しした。

 現在、その帆に追い風を受けているのはナショナリストと主戦論者、陰謀論者だ。

 来年にかけて、ロシアがウクライナとの戦争で主導権を握る危険性が高まっている。

 中東では、イスラエルと一部アラブ諸国の「アブラハム合意」によって芽生えた楽観論がハマスによるイスラエル攻撃とイスラエルによるガザ侵攻で打ち砕かれた。

 今では再び活発になる和平プロセスよりも中東に広がる戦争の方が可能性が高い展開に思える。

イスラエルを支持するバイデン政権の苦悩

 米国では、ジョー・バイデンの政権が深刻なトラブルに陥っている。

 ベッティング(賭博)市場では今、ドナルド・トランプが2024年の米大統領選挙の勝者の本命になっている。

 最近の世論調査では、トランプが選挙を決する激戦州の大半で対立候補を大きくリードしている。

 こうした有害な展開すべてが世界の政治的ムードを悪化させている。また、それぞれが直接、互いに火に油を注いでいる。