今や運動靴という枠組みを飛び越え、1つのカルチャーとしても世界中で愛されているスニーカー。その魅力である軽快な履き心地と個性豊かなデザインは、一流の革靴を日々の相棒とする読者諸氏をも魅了してやまない。ここでは“本物”を知る大人の男が選ぶべきスニーカーを提案する。

写真=青木和也 スタイリング=泉敦夫 文=TOMMY 編集=名知正登

 今回はまずMJについて話す。通例でいえば枕話を通じてスニーカーとの関連性を語るのだが、そう聞いてまず思い浮かぶのが、ナイキが誇るジャンプマンマークのアレ。だが今回は違う。マイケルはマイケルでも、ジャクソンのほうだ。

“キング・オブ・ポップ”とも称される世界的スターが、1980年に発表したアルバムの名が『OFF THE WALL』。直訳すれば“壁から離れる”となるが、転じて“型破り”という意味を持つ慣用句で、1966年頃に成立したスラングに由来するとか。先述のアルバムの歌詞対訳解説書では“気楽に生きる”と訳されており、これは同作が、彼にとって実質のソロ1作目であることを示唆しているとも考えられる。

 ではそれとスニーカーがどう関係するのか? ここでやっと今回のテーマに。ヒールラベルに自ら“型破り”と刻んだアメリカ西海岸生まれのブランドとくれば、ヴァンズ以外にない。

 サーフ〜スケートボード・カルチャーが花開いた1970年代、時代という大きな波を乗りこなし一躍人気ブランドに成長した同社。ここでは半世紀以上にも及ぶ歴史の中で生み出してきた傑作モデルを紐解いていく。…なんて小難しく考える必要はない。ラフに履いて“気楽に”楽しむ、それで良い、ヴァンズはそれが良い。

 

1. VANS「PREMIUM AUTHENTIC 44」

スニーカー¥11,000/ヴァンズ(ヴァンズジャパンカスタマーサポート)

ブランド創立時から愛され続ける、永久不滅のクラシック

 サーフィンでいえばパドリング、スケートボードでいえばプッシュからすべては始まる。ヴァンズのアーカイヴモデルの中では、1966年のブランド創立時から存在する「オーセンティック」がこれに該当する。丈夫なキャンバス素材のアッパーとバルカナイズド製法で接着されるワッフルソールによって、摩耗にも耐える抜群のタフネスとデッキを確実につかむ力強いグリップを実現したことで、スケーターから拍手をもって迎え入れられた同作。

 今回用意したのはオリジンカットの型番“44”をその名に冠する、アーカイブデザインを再現したモデルだ。やや厚みのあるソールなど当時のディテールを再現しつつも、現代的スペックにアップデートされている。シンプルでどこか肩の力が抜けたようなリラックスムードが、夏、そして海にもよく似合う。