文=酒井政人 

昨年(2023年)12月10日に開催された日本選手権男子10000m、日本新記録で優勝した塩尻和也 写真=長田洋平/アフロスポーツ

パリ五輪は男女とも〝狭き門〟

 今夏のパリ五輪代表選考会を兼ねた日本選手権10000mが5月3日に静岡・エコパスタジアムで行われる。

 パリ五輪の出場資格はワールドアスレティックス(WA)が設定する参加標準記録の突破者と、1カ国3名で設定されたワールドランキング(Road to PARIS 24)において、種目ごとに設定されたターゲットナンバー(出場枠)内に収まった競技者に与えられる。

 10000mの参加標準記録は男子が27分00秒00、女子は30分40秒00。日本勢の突破者はいない。今大会で参加標準記録をクリアして、優勝すればパリ五輪代表に〝即内定〟となるが、気象条件を考えると難しいだろう。

 しかも10000mはクロスカントリーのワールドランキング上位8選手も参加標準記録突破と同様の扱いとされるため、ターゲットナンバー「27(枠)」のうち、すでに男子は「24」、女子は「23」までが埋まっている。残されている出場枠は男子が「3」、女子は「4」。新たな参加標準記録突破者が出なければ、残りはワールドランキングでの〝勝負〟となる。

 日本勢は男女とも複数選手が現時点でパリ五輪の〝出場圏内〟につけており、静岡でのナイター決戦は熱くなりそうだ。

 

男子は日本記録保持者の塩尻がV候補か

2023年12月10日、日本選手権男子10000m、優勝した塩尻と2位の太田智樹、3位の相澤晃 写真=長田洋平/アフロスポーツ

 最新のワールドランキング(Road to PARIS 24)は田澤廉が26番目、太田智樹が27番目とトヨタ自動車コンビが〝圏内〟につけている。そして塩尻和也(富士通)が28番目の〝次点〟という状況だ。

 10000mのワールドランキングは期間内における2レースのパフォーマンススコア(記録と順位スコアの合計)の平均ポイントで順位がつく。現在は田澤が1221pt、太田が1220pt、塩尻が1216pt。3人は僅差で続いており、日本選手権の結果がパリ五輪代表の座を大きく左右することになる。

 そのなかで現在、日本勢では最もパリに近い田澤が「コンディション不良のため」に日本選手権の欠場を表明した。今大会は昨年12月に行われた前回大会で日本歴代1~3位の好記録を叩き出した塩尻、太田、相澤晃(旭化成)の3人がレースの中心になりそうだ。なかでも本命は塩尻か。

 塩尻は前回大会で27分09秒80の日本記録を樹立。3月16日の米国・The TEN10000mは途中棄権したが、4月13日の金栗記念選抜中長距離熊本大会5000mは13分24秒57で日本人トップを奪っている。

 2月上旬に取材したときには、「どんなレース展開でも最後は勝ちたい。奇抜なことをするのではなく、自分の勝ちパターンに持ち込みたいですね」と話していた。ラスト1周のキック力には欠けるが、昨季からロングスパートを武器に数々のタイトルに輝いている。パリゆきのキップをつかむためにも好タイムで連覇を成し遂げたい。

 太田は昨季から高いレベルで安定しており、今年のニューイヤー駅伝は最長区間となった2区でダントツの区間賞を獲得。The TENではセカンドベストの27分26秒41をマークしている。地元・静岡で初優勝を飾って、パリ五輪に前進したい。

 2020年の日本選手権を27分18秒75の日本記録(当時)で制した相澤は故障に苦しんできたが、昨年の日本選手権で自己ベストを5秒以上更新。今回、好タイムで優勝できればワールドランキングの急上昇が見込める。一気にパリ五輪に近づくかもしれない。

 他にはパリ五輪の男子マラソン代表に内定している赤﨑暁(九電工)、小林歩(NTT西日本)と鈴木芽吹(トヨタ自動車)の駒大OB、それから駅伝でも好走している葛西潤(旭化成)に注目したい。

 男子はペースメーカーを含めて26名が出場予定。現役学生では篠原倖太朗(駒大4)、山口智規(早大3)、斎藤将也(城西大3)、前田和摩(東農大2)の4人が挑戦する。特に前田は春先に3000mと5000mで自己ベストを更新しており、非常に楽しみな存在だ。

 

女子は誰が〝新女王〟に輝くのか

 女子は最新のワールドランキング(Road to PARIS 24)で廣中璃梨佳(JP日本郵政グループ)が24番目、小海遥(第一生命グループ)が26番目、五島莉乃(資生堂)が27番目。日本勢はこの3人が〝出場圏内〟につけている。

 そのなかで日本選手権を3連覇中で、昨年のブダペスト世界陸上10000mで7位入賞を果たした廣中が欠場を表明しており、今大会は〝新女王〟が誕生することになる。

 オープン参加のケニア人選手を含めて、11名が出走予定。前回大会で終盤まで廣中と競り合って2~4位に入った高島由香(資生堂)、小海、五島の3人が優勝争いの中心になるだろう。今大会も30分台での決着を期待したい。

 男女とも実業団所属の外国人選手がペースメーカーを務めるだけでなく、前回大会同様に電子ペーサーを導入する予定(男子は27分22秒、27分40秒、28分00秒/女子は30分50秒、31分30秒、32分30秒を予定している)。

 スタート時刻は女子が19時30分、男子が20時10分。パリ五輪を目指すランナーたちの激突が〝名勝負〟を生み出すだろう。