(英フィナンシャル・タイムズ紙 2023年10月28・29日付)

プーチン大統領を理解していたのはドイツのメルケル元首相だけだったのかもしれない(写真は2021年8月20日、ロシアを訪れたメルケル首相、写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 フランスのエマニュエル・マクロン大統領は、パートナーシップについて話そうとロシアのウラジーミル・プーチン大統領に何年も声をかけていた。

 2019年の夏にはプーチン氏を南仏コート・ダジュールの大統領別荘に招くことまでして、「ロシア・欧州連合(EU)間の安全保障と信頼の新たな構造」を作る議論をしたいと持ちかけた。

 プーチン氏は当惑した。

 マクロン氏がこの件について、ほかの欧州首脳に事前に話をしていなかったからだ。

 そこでプーチン氏は「ほかの首脳を何とか説得できると思っているのか」と尋ねた。

マクロン仏大統領がついに理解した瞬間

 ロシアが昨年ウクライナに侵攻した後、ドキュメンタリー作家のガイ・ラガチェ氏はマクロン氏に「大統領はプーチンと理詰めで話をすれば何か違う結果が得られると思っていたのですか」と質問した。

「そうだ」

「でも、そうはなりませんでした」

「ならなかった」とマクロン氏は指摘を認めた。

 このドキュメンタリーでマクロン氏は遠くを見つめ、水を飲み、少しだけ黙り込んだ。

 フランスのジャーナリスト、シルヴィ・カウフマン氏は新著『Les aveuglés(気づいていない人たち、の意)』でこのシーンに触れ、「エマニュエル・マクロンが、ウラジーミル・プーチンとは何者なのかをついに理解したとの印象を与えている」と記した。

『Les aveuglés』は西側諸国がなぜプーチン氏を誤解したかを詳細に分析した本だ。