(英フィナンシャル・タイムズ紙 2023年10月31日付)

第1次世界大戦勃発の引き金となったオーストリアのフランツ・フェルデナント大公暗殺事件(写真は暗殺数時間前の大公夫妻を乗せた車、写真:TopFoto/アフロ)

 歴史家は第1次世界大戦の勃発に興味をそそられる。

 1914年6月にサラエボで起きたオーストリア大公の暗殺は一体なぜ、ものの数週間で欧州のすべての大国、やがては米国を巻き込む紛争に発展したのか。

 この疑問が特に悩ましいのは、関係国の多くの指導者が懸命に全面的な欧州戦争を避けようとしたからだ。

 ドイツとロシアの皇帝は幾多のメッセージを交わし、紛争に発展した1カ月間の危機を鎮静化しようとした。だが、努力は無駄に終わった。

意図せぬエスカレーションの危険

 これと似た意図せぬエスカレーションの危険が今、中東地域に忍び寄っている。

 ガザ紛争の恐怖があまりに鮮烈なため、あの地区の戦闘だけに集中したい気持ちになる。

 だが、西側の政策立案者は次第に地域全体に目を向け、イランと米国、さらにはサウジアラビアをも引きずり込むかもしれない中東での全面戦争の危険に焦点を合わせている。

 バイデン政権にとっては、この大々的な戦争の脅威が今、危機全体における最大の課題と見なされている。

 米ワシントンのある関係者の言葉を借りると、「すべての関係国は、もし踏み越えられたら行動に出るしかないと考える境界線を持っている。だが、相手側の境界が何かを本当に知っている人は誰もいない」。

 10月下旬、イランは自国の境界が近づいてきているという明確な警告を発した。

 エブラヒム・ライシ大統領はX(旧ツイッター)に投稿し、ガザにおけるイスラエルの行動は「レッドラインを越え、誰もが行動に出ることを余儀なくされるかもしれない」と述べた。

 さらに「ワシントンは我々に何もするなと頼んでくるが、彼らはイスラエルに広範な支持を与え続けている」と付け加えた。