原油価格の下落が引き起こす未曾有の事態

中東で地政学リスクが飛躍的に高まる懸念

2018.07.20(金) 藤 和彦
    http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/53588
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 OPECは7月11日、「消費が減速するため2019年のOPEC産原油の需要は日量3218万バレルとなり、2018年から76万バレル減少する」との見通しを示した。OPECをはじめとする主要産油国の減産措置にもかかわらず、原油市場が再び供給過多になる可能性が出ている。

 世界最大の原油需要国である米国の直近の数字は日量1991万バレルとなり、節目の2000万バレルを下回って低迷している。石油製品価格の高騰が消費を手控えさせているからだ。6月の米生産者物価指数の伸びが加速しており、物価上昇圧力が米国の利上げのペースを加速させ、石油製品需要をさらに減少させる恐れがある。米エネルギー省は今年(2018年)の原油消費量を2041万バレルから2035万バレルに引き下げた。

 世界最大の原油輸入国となった中国の6月の輸入量も前月比9.2%減の日量836万バレルとなり昨年12月以来の低水準となった。独立系製油所(茶壺)の原油輸入量が20カ月ぶりの低調となったからである。

 茶壺は2015年に原油輸入が認められると猛烈な勢いでその量を拡大させ、現在中国の原油輸入量全体の5分の1を占めるまで至っている。昨年の原油輸入量の増加の85%を占めた茶壺が輸入に消極的になったのは茶壺に対する税制が強化されたからである(7月15日付OILPRICE)。茶壺はこれまで消費税が実質的に免除されてきたが、今年3月以降、その例外が認められなくなり、原油価格の上昇による精製マージンの低下もあいまって経営環境が急速に悪化している。中国政府が7月に実施した今年2回目の原油輸入枠の入札も極めて低調に終わっていることから、茶壺の原油輸入量は今後も低調となる可能性が高い。

 米中貿易戦争の懸念も日増しに高まっている。米国の対中輸出額よりも中国の対米輸出額の方が格段に多いことから、中国経済に対する警戒感が高まっている。米国政府は7月10日、中国からの輸入品2000億ドルについての関税リストを公表し、10%の追加関税を適用する方針に明らかにした。最終的には中国からの輸入額全体に匹敵する5000億ドル超に追加関税を課すとしており、トランプ大統領の対中関税攻勢はもはや後に引けない地点に到達した可能性がある(7月12日付ブルームバーグ)。

 中国の過去10年間の対米貿易黒字合計額は3.2兆ドルに上るが、トランプ政権は中国の対米貿易黒字を今後半減することを目標にしている。米国は最近まで「中国の発展を手助けすれば国際秩序を守る民主国家になる」との期待から中国を支援する「関与(エンゲージメント)」政策を採ってきたが、ようやく誤りに気づき、対決姿勢に舵を切ったようだ。「米国は20年後の覇権を賭けて中国の封じ込めを本気で狙っている」と指摘する向きもある。長年の懸案だった債務問題が表面化しつつあるタイミングであることも混乱に拍車をかけている。中国経済が急速に失速すれば、茶壺の需要減よりもはるかに大規模の原油需要の減少が生ずるだろう。

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経済産業研究所上席研究員。1960年、愛知県生まれ。早稲田大学法学部卒。通商産業省(現・経済産業省)入省後、エネルギー・通商・中小企業振興政策など各分野に携わる。2003年に内閣官房に出向(エコノミック・インテリジェンス担当)。2016年から現職。著書に『日露エネルギー同盟』『シェール革命の正体 ロシアの天然ガスが日本を救う』ほか多数。

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