これを見ていたパキスタンの同盟国である中国は、スムドロング・チュへの侵入事件を起こして、インド軍を自分の方に引きつけ、パキスタンとアフガニスタンのゲリラ支援ルートを救おうとしたのである。それによって、中国のパキスタンに対する影響力を保持するのが狙いだ。

 つまり、過去の3回の事例を見れば、中国がインドに対して軍事行動を取るときには外交的な目的がある可能性が高い。では、現代の中国にとって、インドを攻撃する真の目的はあるのだろうか。

 6月半ばから続いているインドと中国のにらみ合いの原因が、中国とインドではなく、中国とブータンの間で起きた領土問題に起因することは注目に値する。

 もしインドが中国の要求しているように兵を引けばどうなるか。ブータンは、インドはブータンを守ってくれないと考えて、インドのブータンに対する影響力が落ちることになる。

 インドが譲歩すれば、ブータンだけでなく、ネパールやバングラデシュ、スリランカ、モルディブ、ミャンマーなどのインドの周辺国からみて、インドは弱い国として見られる可能性がある。

 つまり、中国の軍事行動の真の目的には、他の周辺国に対して、インドと中国、どちらが影響力を有するか、争っている側面がある。

 中国は「強い」リーダー的存在の国であり、インドは「弱い」国であると証明したい。これは過去3回起きてきたことによく似ている。

 しかも、中国から見れば、インドのナレンドラ・モディ政権の政策は、挑戦的である。例えばインド海軍の艦艇は、かつては、日本に寄港すると中国にも寄港していた。ところがモディ政権成立の1か月前を最後に中国へ寄港しなくなった。

 モディ政権になってからのインド海軍の艦艇は、日本、ロシア、韓国、フィリピン、ベトナム、マレーシア、ブルネイ、シンガポール、インドネシア、オーストラリア、米国(ハワイ)などの国々へ寄港したり、共同演習している。

 これだけ訪問しているのに中国に訪問していないのは、インドのモディ政権が、中国軍のインド洋進出を不愉快に思っていることを示す明確なメッセージとなっている。中国から見れば、挑戦的だ。

 さらに、2017年4月には、中国が領有権を主張するインドのアルナチャル・プラデシュ州(中国名:南チベット)へのダライ・ラマの訪問を許可した。6月には、中国で行われた「一帯一路」サミットへのインド代表参加の招待を断っただけでなく、「一帯一路」構想に対する明確な反対の公式声明を出した。

 そこには、インドが領有権を主張するカシミールで中国軍が道路建設を行っていることへの不満や、援助される各国の現地の事情を顧みずに援助漬けにする中国のプロジェクトの在り方への批判が書かれている*1

 そしてその直後に、日本と共に「アジア・アフリカ経済回廊」構想を打ち出し、日印主導の援助外交によって、中国への対抗心を明確に示している。

 中国から見ると、これらのインドの行動は、中国がリーダー的な存在であることを否定する挑戦的な姿勢である。だから、過去3回の軍事行動と同じように、中国の影響力を示す手段として軍事的な攻撃を選択することがあっても、不思議ではない。

*1=Ministry of Foregin Affairs Government of India, ”Official Spokesperson's response to a query on participation of India in OBOR/BRI Forum”, May 13, 2017
http://mea.gov.in/media-briefings.htm?dtl%2F28463%2FOfficial_Spokespersons_response_to_a_query_on_participation_of_India_in_OBORBRI_Forum