「国家は戦争をしない」と考える人は多いのではないだろうか。戦争をしない方が賢く見える要因がたくさんあるからだ。
例えば、核兵器を保有する国同士が戦争をすれば、利益に見合わない大きな損害が出る。昨今の経済的な相互依存関係から見ても同じだ。だから損得計算からして戦争に踏み切るような決断はあり得ない。
しかし、このような意見は第2次世界大戦のような大戦争には適用できても、より小規模な戦争にも適用できるのだろうか。また、英国がEUから離脱したような、経済合理性からは説明しにくい事態が起きる可能性はどうだろうか。
より細かな想定をしていくと、国家間で本当に戦争は起きないのか、疑問に思えてくる。
最近、インドと中国の国境地帯(厳密には「実効支配線」)で起きている両軍のにらみ合いも、戦争に至る可能性のある危機なのかもしれない。きっかけは、中国がブータンと領有権争いを行っている地域で、中国軍が道路建設を行ったことだ。
ブータンの安全保障を担うインドが阻止に入り、印中両軍がにらみ合い、次第に兵力を増強しながら、6月半ば以降1か月以上にらみ合っている。
このような国境地帯における侵入事件そのものは小規模なものも含めると年間300件以上あり、ほぼ毎日だ。そのうち、少し規模の大きなにらみ合いが起きるのも、年平均2回程度ある。
しかし、今回は若干、様相が異なる。
中国軍の報道官が「過去の教訓(1962年の戦争でインドが中国に敗北した件)」から学ぶよう言及し、中国政府は、インド軍が撤退しない限り「交渉しない」と言及し、中国メディアも「外交以外の手段(戦争を指す)」を選択すると連日報道している。
中国は「孫子の兵法」の国である。「孫子の兵法」では、戦争をするときは密かに準備し、奇襲を狙う。戦争をすると公言しているときは、戦争しない傾向がある。だから、そこから考えれば、今回、戦争になる確率は低い。
しかし、過去に中国がインドに対して仕かけた軍事行動を分析すると、インドが中国に限定的ではあるが、軍事的な攻撃を仕かけてもおかしくない状況がある。そして中国がインドを攻撃するような事態になれば、日本も立場を決めざるを得なくなるだろう。
そこで、本稿は、印中国境で何が起きているか、過去の事例を含め分析し、本当にインドと中国が交戦状態に入ったとき、日本がどうするべきか考察することにした。