(2)インドの対抗策

 そこでインド側も対処しようとしてきた。インフラを建設し、軍を再配置し、周辺国対策を進めようとしたのだ。印中国境地帯では、1997年に73本の道路が必要と判断し、そのうち61本の道路を2012年までに造ることにした。鉄道14本も計画した。

 軍の再配置も進め、戦車部隊、多連装ロケット部隊、巡航ミサイル、「Su-30戦闘機」の配備を進めている。その中で特に目玉となるのは新しい第17軍団の創設だ。

 この軍団は、中国よりも標高が低いという地形的に不利な状況を克服するために作られた。実はインドは過去、標高の高い所にいる敵と戦ったことがある。1999年の印パ間のカルギル危機だ。

 この時、インドは山の頂上に陣取る敵に対して攻撃することがとても困難で、敵の9倍の戦力で攻撃しないと勝てないことを知った。また、標高の高い所にいる敵を攻撃するためには、まず敵の補給を断つことが重要なことも再認識した。

 そこで第17軍団を創設することにしたのだ。第17軍団は空中機動軍団。敵が攻めて来れば、輸送機に乗って敵を飛び越え、敵の後方、より標高の高いチベットへ攻め込む。そして、敵の背後にある補給拠点を攻撃して敵を弱らせる。最後は、他の味方と連携しながら領土を奪回するのである。

図2:インドの陸軍師団配置図(赤い矢印が第17軍団、拙稿『検証 インドの軍事戦略―緊張する周辺国とのパワーバランス』(ミネルヴァ書房、2015年)251ページより更新)
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図3:インド空軍戦闘飛行隊配置図(ミグ21を除く、拙稿『検証 インドの軍事戦略―緊張する周辺国とのパワーバランス』(ミネルヴァ書房、2015年)254㌻より更新)
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 この第17軍団の構想を実現するには、多くの装備が必要だ。そこでインドは米国と協力している。第17軍団関連の装備では、大型輸送機、中型輸送機、大型輸送ヘリ、攻撃ヘリ、空輸可能な超軽量砲など、米国製の比率が非常に高い。

 さらに、インドは、周辺国対策も進めている。インフラ建設の支援と共に、武器輸入への影響力を狙った構想だ。

 例えば2017年に、バングラデシュが購入する武器の費用500億円をインドが肩代わりする協定を締結したのは、その一例だ。バングラデシュは、この資金で、中国製の戦闘機ではなくロシア製の戦闘機を購入することを検討している。

 もしバングラデシュがロシア製の戦闘機を購入すれば、インドもロシア製の戦闘機を使っているから、整備や訓練などの面で、インドがバングラデシュ空軍の維持管理にかかわることが可能で、インドのバングラデシュへの影響力を維持することが可能になる。

 これらの構想は、みな一定の進展がみられている。しかし、問題はその実現速度だ。例えば、インドの道路建設は、2012年までに73本中61本完成している計画だったはずだった。

 ところが実際には、2017年3月までに24本しか完成していない。第17軍団はすでに編成され、人員も揃ったのに予算が十分ではなく、規模を縮小するべきかの議論が行われている。

 周辺国への武器購入資金援助のプログラムはまだ始まったばかりで、どの程度中国の影響力を抑えることができるかまだ分からない。その結果、インドと中国の国境防衛能力には差が出てきた。

 インド軍と中国軍が国境まで一斉に競走した場合、中国軍は2日で到達し、インド軍は7日かかる見通しだ。中国はこのようなミリタリーバランスの状況を見て、今回のような挑発的な行動に出ているのである。