具体的には、下の図に示しているように、自社の生産・営業活動に関わるものだけではなく、サプライヤーや顧客の排出量の算出にも及んでいる。

 これにより、企業は自社の排出量を減らしているかのように、あるいは少なく見せかけることができなくなる。例えば、企業は自社の生産・営業活動からの排出量を減らすために、そうした活動を外注に変えれば、スコープ1やスコープ2の排出量が減ったかのように見せられる。

 しかしスコープ3も含めて開示するとなると、外注した先での排出量を含めなければならないため、見かけ上削減できたかのように示すことはできなくなる。企業の活動をできる限り全て網羅し、透明性や一貫性を高めて開示する枠組みがGHGプロトコルである。

 また、大企業だけが開示の対象となったとしても、スコープ3のデータの算定において取引相手の中小企業のデータも必要になる。また、銀行の開示でもスコープ3の投融資先のデータが必要になってくる。このため、開示義務がない企業も、大企業や銀行の排出量データの算定プロセスにおいて間接的に影響を受けることを念頭に置いておくべきであろう。

 このような説明を聞くと、企業の間で温室効果ガス排出量の二重計上になってしまうと思う人もいるはずである。例えば、ある企業Aにとって自社の生産からの排出量はスコープ1に分類されるが、その財を購入した別の企業Bにとって企業Aから購入した財に関連する排出量はスコープ3(上流)に分類されるかもしれない。

 そうなると、企業Aのスコープ1の排出量と企業Bのスコープ3の排出量として二重や多重に計上されるので、企業Aと企業Bの排出量を合計すると排出量が過大評価になってしまうと思われるかもしれない。

 本質的には排出量の算定では、重複して計上されることは問題ではないことを理解しておこう。スコープ1、2、3の排出量の算定をする目的は、誰がその排出量を生み出したかではなく、各企業がどのように温室効果ガスの排出問題に直面しているかを把握するためだからである。

 それにより企業の気候変動のリスクが生産工程のどの段階にあるのかが明確になるし、それを知ることで削減対策を考える際に、新しい事業機会をつかむきっかけともなりうる。