出所:共同通信イメージズ出所:共同通信イメージズ

 2025年11月、eコマース向けAIエージェントの提供を開始し、注目を集めているセールスフォース。同社が発祥とされる営業の分業化プロセス「The Model」では、分業によって各人の専門性を高め、生産性と再現性を両立させてきた。そして「その取り組みは、今や営業力の強化にとどまらない」と語るのは、2025年9月に著書『強くて元気な営業組織のつくりかた』を出版した、グロービス出版局長・グロービス経営大学院教授の嶋田毅氏だ。セールスフォースが取り組む標準化がもたらしたメリット、強い営業組織をつくるために同社から学ぶべき点について、嶋田氏に聞いた。

営業判断のよりどころになる「セールスコンセプト」

――著書『強くて元気な営業組織のつくりかた』では、強い営業組織の要となる「セールスコンセプト」の重要性について述べています。セールスコンセプトでは営業組織や営業活動の方針を定める、とのことですが、どのような内容を盛り込むべきなのでしょうか。

嶋田毅氏(以下敬称略) セールスコンセプトには、欠かしてはならない3つの要素があります。第一に「顧客提供価値」、第二に「自社ならではの戦い方」、第三に「営業現場での重視ポイント」です。原理原則となるものもあれば、「お客さまとの対話で悩んだ際にどう考えるべきか」といった実務的なことも含みます。

 もちろん、経営理念やビジョンはセールスコンセプトにも反映されています。一方、経営理念やビジョンだけが定められていても、現場のセールスパーソンはどのように行動すればよいか、迷ってしまうのではないでしょうか。

 例えば「顧客満足を追求する」という経営理念が掲げられていたとします。しかし、その文言だけでは、いざセールスパーソンが現場での提案や対応に迷ったときに、各セールスパーソンの営業手法や提供価値にバラつきが出てしまいかねません。そのような際の判断のよりどころとして、セールスコンセプトが必要になります。

 法人向け研修サービスを提供する当社グロービスでは、営業現場において「原則として値引きなし」という方針を貫いています。というのも、「値引き」は営業担当者にとって手軽で即効性のある販売手段である一方で、利益率を大きく圧迫する行為でもあるからです。安易に値下げに頼れば、短期的には契約が取れても、事業としての採算性が悪化し、継続的な成長を阻む要因になりかねません。

 だからこそグロービスでは、価格に見合う価値をきちんと提供することを前提に、値引きに依存せずに顧客から納得を得る営業スタイルを徹底しています。