企業の温室効果ガス排出量は「スコープ3」に集中

 各企業の排出ではスコープ3の排出量が突出して大きいことが多いので、ここを把握して対策を考えなければ十分排出削減ができない可能性がある。スコープ3は、企業の排出量全体の7~9割も占めていると言われている。

 下の図は、企業の環境関連の情報開示を世界的に進める非営利組織CDPが企業から得たデータにもとづいて示したものである。これによれば、多くのセクターにおいてスコープ3の排出量がスコープ1と2の合計排出量の2倍以上にもなっていることを示している。

 例えば、製造業では6.5倍、食品・飲料・タバコ業でも6倍近くにもなる。このことからも企業のスコープ1と2だけに削減の焦点を合わせるだけでは不十分なことは明らかである。

 食品・飲料会社であれば、スコープ3(上流)のカテゴリー①(原材料の調達)の排出量が圧倒的に多くなる。自動車メーカーであれば、スコープ3(下流)のカテゴリー⑪(ユーザーの走行による排出量)が最大となっている。

 石油・ガスの探査・生産をする事業会社も、カテゴリー⑪(ユーザーによる化石燃料製品の燃焼からの排出量)が最も大きくなっている。銀行であればカテゴリー⑮の投融資からの排出量が中心となる。

 カテゴリー別の排出量の所在を把握すると、企業が直面する気候変動の「移行リスク」がどこで生じる可能性があるのかを予測し、より効果的な対応策をとれるようになる。

 同時に、企業へ投融資する投資家や銀行も、投融資先の企業が直面しうる気候リスクを理解することができるようになり、投融資判断に役立てることが可能になる。

<連載ラインアップ>
第1回 気候変動対策として、各国はなぜ温室効果ガス排出量「正味ゼロ」を目指すのか?
第2回 世界三大格付け会社が警告、気候変動への対応力が「企業の信用」に直結する理由とは?
第3回 欠かせないのは短期・長期の視点、現代の企業経営に重大な影響を及ぼす3つの気候変動リスクとは?
■第4回 企業はなぜ、「バリューチェーン全体」の温室効果ガス排出量に目を配る必要があるのか(本稿)
■第5回 温室効果ガス排出削減の新たな指標「削減貢献量」に企業が注目する理由とは?(10月4日公開)
■第6回 企業の環境経営を促す「カーボンプライシング」、今から検討すべきビジネスモデルの変革とは?(10月11日公開)

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