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 根回し、派閥、権力争い…とかくネガティブなイメージが付きまとう「社内政治」。しかし世界的には主要な研究テーマの1つであり、健全で活力ある組織づくりに不可欠なものである。『社内政治の科学』(木村琢磨著/日経BP 日本経済新聞出版)から一部を抜粋・再編集し、学術研究に基づく知見や技術を紹介。あわせて、社内政治の実践的な活用法も解説する。

 どんなに優れた提案でも、組織内で「正当なもの」と認識されなければ受け入れられない。提案の成功確率を飛躍的に高める鍵を握る「正当性」「文脈知識」とは何か?

正当性に関する理解

社内政治の科学』(日経BP 日本経済新聞出版)

 政治ランドスケープのほかに、社内政治において重要なもう1つの知識が正当性に関する理解です。いかに素晴らしい提案であっても、それが「正当なもの」として認識されなければ、組織で受け入れられません。反対に、正当なものだと思ってもらえれば、たとえ新奇性の高い挑戦的な提案でも、社内で支持を集めることができます。どのようなことが社内で正当だと思われるのか、その知識が重要です。

 正当性とは、ある意見や行動、提案が「社会的文脈において適切である」と集団内で共有されている程度を意味します(Tost, 2011)。これは、組織の中にある暗黙のルール、価値観、優先順位など、会社という小さな社会における状況や流れに合っているかどうかを意味します。正当性には大きく3つの次元があります。

・ 用具的正当性:その提案や施策が、企業の目標や成果の達成にとって役立つかどうか、という観点。たとえば、コスト削減や売上増加に直接貢献する施策は、用具的正当性が高いと判断されやすくなります。

・ 関係的正当性:その提案が会社のアイデンティティや価値観に一致しているかどうか、という意味での正当性です。たとえば「革新的な企業」を標榜している会社であれば、既存の枠を壊すような大胆なアイデアが正当な提案として受け入れられやすい傾向があります。逆に、安定性や品質重視の企業では、リスクの高い提案は正当性を持たない可能性があります。