大日本印刷 専務取締役 経理本部、法務部、監査室担当の黒柳雅文氏(撮影:榊水麗)

 2025年4~9月期の連結決算で、写真事業などの好調を受け営業利益が前年同期比22%増となった大日本印刷(DNP)。同社は社内外の環境変化を受け、経理部門のDX改革を本格化した。約2万社分の取引を抱える膨大な業務量や、アクティビスト対応に伴う資本市場との対話強化が背景にある。システム、業務、組織を同時に見直し、「受け身」「守り」からの転換を目指す改革の狙いと実装の要点を、専務取締役の黒柳雅文氏に聞いた。

「物言う株主」と社長交代が変革の契機

──DNPは近年、資本市場との対話を積極化させています。2023年2月には東京証券取引所の要請に先駆けて「ROE(自己資本利益率)10%」「PBR(株価純資産倍率)1.0倍超の早期実現」を掲げた経営基本方針を発表しました。こうした動きを受けて、経理部門の変革に着手したのですか。

黒柳 おっしゃる通り、外部環境の変化は非常に大きな契機となりました。背景には、大きく2つの出来事があります。

 1つは、アクティビストの対応()を経験したことです。

※2024年3月末時点で「物言う株主」として知られる米エリオットマネジメントがDNP株式の2.7%、同社の関連会社が1.27%を保有。その後、DNPは約2200億円の政策保有株式の売却、3000億円程度の自己株式取得など、資本政策を相次いで実行している。

 アクティビストとの対話を経て、株式や資本政策を管轄する経理部門の重要性が社内で改めて見直されたのです。「やっぱり経理は頼りになるね」と、今までより少し“上”に見られるようになったというか(笑)。これが、決算や税務調査といった「過去の話をする」従来の経理業務から脱却する、マインドチェンジのきっかけになりました。

 もう1つは、コロナ禍です。お恥ずかしい話ですが、私たちはルーツが印刷会社ということもあって「紙が好き」な文化が根強く、帳票類は全て紙で保存していました。コロナ禍当初も経理部門のオフィスは紙に埋もれていて、会社に来てはんこを押さないと仕事が進まない。感染防止のために出社制限がかかる中でも経理だけは出社せざるを得ず、「このままでは業務が回らない」という切迫感が強まりました。この外的な圧力によってペーパーレス化、オンライン化が一気に緊急度の高い課題となったのです。