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 近年、人的資本経営の考え方が浸透してきているように、各企業において、「ヒト」という資本に対する価値が見直され始めている。企業価値向上にもつながる従業員エクスペリエンス(EX: Employee Experience)とは何か。本連載では『EX従業員エクスペリエンス 会社への求心力を強くする人事戦略』(加藤守和・土橋隼人著/日本能率協会マネジメントセンター)から、内容の一部を抜粋・再編集。企業経営においてEXを高めていくことの必要性を考える。

 第1回は、「モノ・カネ」以上に「ヒト」が経営資源として重視されるようになってきた社会的背景について考察する。

<連載ラインアップ>
■第1回 高報酬だから人材が集まるわけではない、「ヒト」の資本価値を見極める難しさとは?(本稿) 
第2回 社員誰もが会社に対し自由に声を上げられる、メルカリの独自施策「オープンドア」とは?
■第3回 社員が異動希望先に“応募”する、パーソルグループの「キャリアチャレンジ」が組織を強くする理由(9月17日公開)
■第4回 コロナ禍前から場所や時間に縛られない働き方を実践、ユニリーバ・ジャパンが目指すEXとは?(9月24日公開)
■第5回 社会のDXを支援する富士通は、なぜ全社DX「フジトラ」において従業員とカルチャーの変革を重視するのか(10月1日公開)
■第6回 全社員の声で組織を動かす、富士通の「VOICEプログラム」が変えた従業員の働き方とは?(10月8日公開)

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■ 大変革時代にある企業の最大の差別化資源とは

EX従業員エクスペリエンス』(日本能率協会マネジメントセンター)

 いま、企業を取り巻く環境は大きく変わろうとしています。世の中の不確実性は高まり、これまでの「勝ち筋」がそのまま通用しなくなってきています。

 国際紛争や政情不安による地政学的リスク、生成AIをはじめとした新たなテクノロジーによる破壊的イノベーション、環境負荷への関心の高まりや規制の強化、業界・産業の常識やルールをひっくり返す新たなプレイヤーの台頭。

 目まぐるしく変わる外部環境に対する対応を誤ると、一気に経営危機に陥りかねません。

 時代の移り変わりに伴い、経営資源の優先度も変わってきました。かつては「ヒト・モノ・カネ」のうち、「モノ・カネ」に優先度が置かれていました。大規模な設備や工場を持ち、グローバルに物流網や営業チャネルを張り巡らせ、大々的に広告・宣伝を展開する――。

 モノ・カネが大きければ、それだけ市場に対する影響力を持つことができ、参入障壁を高くすることができました。

 しかしいまは、「ヒト」に優先度が変わってきました。その背景には、世の中の価値のシフトがあります。世の中の価値はモノからサービスやコンテンツに移りつつあります。特に、革新的なサービスやコンテンツは、社会全体に大きな影響を及ぼすことも少なくありません。事実、私たちは短期間のうちに多くのイノベーションを目の当たりにしてきました。スマートフォンの世界的普及をはじめとして、音楽・動画プラットフォームやシェアリングサービス、メタバースや自動運転の登場。

 高品質で量産可能なプロダクトではなく、新たな価値を生み出すサービスやコンテンツが人々の生活や消費行動を変えていっています。

 これらのサービスやコンテンツを生み出すのは、「モノ・カネ」ではなく、「ヒト」です。高品質で大量の製品・サービスを世の中に提供することで勝てた時代は「モノ・カネ」を持つことで戦略的な優位性を持つことができました。

 しかし、ユニークで独創的なサービスやコンテンツが求められる時代では、「ヒト」が重要な差別化要因になります