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 将棋に「定石」があるように、ビジネスには経営学者や務家によって開発された「フレームワーク」がある。思考を助ける枠組みであり、アイデア創出やニーズの発見、課題の洗い出し、戦略立案、業務改善など、活用シーンはさまざま。その概要と使用法を心得ておくことが、ビジネスパーソンにとっての大きな武器となる。

 本連載では、事例・参考例が豊富な『ビジネスフレームワークの教科書 アイデア創出・市場分析・企画提案・改善の手法55』(安岡寛道、富樫佳織、伊藤智久、小片隆久共著/SBクリエイティブ)から、内容の一部を抜粋・再編集。

 第6回は、さらなる成長に向けて事業や製品の進化を検討するためのフレームワーク、「アンゾフの成長マトリクス」を紹介する。

<連載ラインアップ>
第1回 斬新な着想を得るための「ランダム刺激発想法」とは?
第2回 商品開発のプロセスに顧客を巻き込む「コミュニティ共創法」と実施のポイントは?
第3回 顧客の「欲しい」を見つける「バリュー・プロポジション・キャンバス」の使い方とは?
第4回 ライバルとの比較で独自のビジネスを構想する「戦略モデルキャンバス」の使い方とは?
第5回 「儲ける仕組み」と「コスト構造」を明らかにする「収益モデル」の使い方とは?
■第6回 新たな成長戦略の策定に活用できる「アンゾフの成長マトリクス」とは?(本稿)
第7回 経済学者H・ミンツバーグが提唱したSWOT分析の発展形とその使い方とは?
第8回 注力すべき事業・商品・顧客が分かる「パレート分析」とは?

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アンゾフの成長マトリクス 概要

ビジネスフレームワークの教科書』(SBクリエイティブ)

 アンゾフの成長マトリクスは、将来の成長に向けて、事業や製品をどのように進化させていくかを検討するためのフレームワークです。自社の製品や事業が現在どの位置にあり、将来的にどの領域に移動していくべきかの戦略策定を行う際に役立ちます。

 このフレームワークは「製品」と「市場」の2つの軸で構成され、それぞれを「既存」と「新規」に分類した4象限で表現されます。

出所:Ansoff(1957)を元に筆者作成
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 アンゾフの成長マトリクスの戦略は次の4つです。

出所:Ansoff(1957)を引用して筆者作成
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 アンゾフの成長マトリクスの典型事例としてよく登場するのは、アメリカのウォルト・ディズニーです。

 ディズニーは、アニメーション映画を成功させた後(①市場浸透)、全世界に市場を拡大しました(②市場開拓)。その後、映像コンテンツだけではなく、登場キャラクターのグッズ製品開発やストア運営を行い(③製品開発)、テーマパークの運営へと多角化しました(④多角化)。

【ここがポイント!】
 多角化は現在の製品ラインと市場構造の両方から同時に離れることになるため、リスクが高い

【Column】市場開拓や多角化は難しい

 アンゾフがハーバード・ビジネス・レビューに発表した『多角化戦略論』の書き出しには、不思議の国のアリスに登場する赤の女王(Red Queen)の台詞が引用されています。

同じ場所にとどまるためには、あなたは全力で走り続けなければなりません。でも、もし他の場所にいこうとするならば、少なくとも今の二倍のスピードで走らなければなりません。(Ansoff,1957の引用文を筆者翻訳)

 アンゾフがこの言葉を引用したように、新市場開拓や多角化は簡単なことではなく、特に「新製品×新市場」の組み合わせは、4つの中でも最もリスクが高いといわれています。