ネスレにおける令和時代の顧客問題解決法

アフターデジタル時代に進化するマーケティング最前線 Vol.2

JBpress/2020.4.13

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甲斐:顧客体験価値に関するテーマに移りたいと思います。ニュースなどを拝見すると、いろいろユニークな体験の場を創造されていますが、最近の事例と、その背景にある考え方を教えてください。

石橋:2002年までさかのぼりますが、当時、われわれが考えたのは、テレビCMを打っても「キットカット」の売り上げはもう上がらないということでした。認知度は100%近くありますし、チョコレートを食べる人で「キットカット」を食べたことのない人はほとんどいません。

 そこで検討したのが、もっと深く消費者に入り込んでいく形でのコミュニケーションです。当時まだインターネットが普及していなかったので、別の手法でニュースをつくって、それを口コミで広めることを考えました。

 ちょうどそのときに、九州の支店長から電話があり、1~2月の受験期に「キットカット」がよく売れていて、スーパーの社長さんがお客様に聞いたところ、子どもが受験で「きっと勝つ」につながるから、「キットカット」を買って渡していることが分かりました。そうして見つけたお客様のインサイトを活用させていただく形で、受験生応援キャンペーンにつながっていきました。

甲斐:いや、すごいですね。20年近く前から消費者インサイトを見つける努力をされている点には感激しました。それから実行力という点では弊社もそうですが、日本のユニークネスを主軸においた取り組みは今でこそ多いですが、当時は苦労されたことを想像します。

 いまでこそ消費者インサイトの発掘からエンゲージメントを深めていくキャンペーンはだいぶ増えてきたと思いますが、かなり早い試みであることに加え、今でも継続されていることは本当に賞賛に値すると思います。

石橋:21世紀はモノだけで問題を解決できない時代だと思います。それはもう2000年を超えたあたりから始まっていたわけです。昔はおいしいチョコレートがあればそれが問題解決になりましたが、世の中においしいチョコレートが山ほどあふれる中で、それにプラスαの価値を付けようと思ったら、まずは本当に消費者が困っていることは何か、喜ぶこととは何か、「キットカット」の例でいうと実際のお客様がどんな消費のされ方をしているのか、といったインサイト発掘ができないといけないわけですね。

 また、本当にお客様に喜んでいただくためには、自社だけで完結していては広がりません。実際に受験生応援キャンペーンでは、ホテルや鉄道会社、タクシー会社、ファミリーレストラン、郵便局などと連携しましたが、さまざまな専門性をもった外部のプレーヤーとの共創が不可欠です。

ブランドオーナーとサプライヤーの関係が変わってきた

甲斐:B2C(Business to consumer)の中でも消費財や食品ビジネスのマーケティングは、マスをターゲットにすることが多いと思います。そうした中で、いち早く今言われるスモールマスに着目されてきた点はとても素晴らしいと思いますが、今後の展開についてはどうお考えですか。

石橋:マスだけではなく、スモールマス、あるいはワン・トゥ・ワンなど、全て重要だと考えています。6年以上前にスタートした試みとして、ソーシャルメディアのリスニングがあります。その後、Twitterなどで弊社の製品・サービスについてつぶやいている人に直接コメントを返すアクティブサポートを2013年に始めました。

 消費財メーカーとしては割と早かったと思います。お礼のコメントを送ったり、逆に製品へのクレームのようなネガティブなツイートに対しては、お客様相談室にご連絡くださいと誘導したりするなど、リスクヘッジも行っています。

 お客様と直接つながるという意味では、オウンドメディア「ネスレ アミューズ」の会員が現時点で650万人いて、そのうち300万人弱がオプトインしていますから、直接メールを送付して、新しいキャンペーンを告知したり、定期的なコミュニケーションを図ったりしています。ネスレアミューズを見ていただいた方とそうでない方を比べると、見ていただいた方のほうが売り上げも上がっていますから、ここのつながりは大事にしたいと思っています。