二極化する広告の役割。コロナ禍で鮮明化した屋外広告の真価

効率化だけでは生み出せない、本当の価値とは何か?

JBpress/2021.8.23

いいね ツイートする
株式会社オリコム OOHメディア局 山本 正博 氏株式会社オリコム OOHメディア局 山本 正博 氏

企業と消費者のコミュニケーションが多様化する中、広告手法も絶えず進化を遂げてきた。そして、突如訪れたコロナ危機。人々の外出が制限される中、屋外広告という媒体の“あり方”が問われている。今後、屋外広告は社会の中でどのような役割を果たし、人々の行動にどのような影響を与えていくのだろうか。屋外広告の変遷と未来にフォーカスし、今後の新たな可能性を探るべく、まもなく創業100年を迎える歴史を持つ総合広告会社 オリコム OOHメディア局の山本正博氏に話を聞いた。

SNS・デジタルの普及で変わった屋外広告の位置づけ

――初めに、屋外広告の特徴や近年の状況について教えてください。  

山本 正博 氏(以下、山本氏) 屋外広告というと、かつてはネオンサインなどが溢れ、街中の賑わいを醸成していました。そして時代は変わり、広告ボード・ポスター等のアナログ媒体からデジタルサイネージなどに変わりゆく屋外広告も増えてきました。

 電通が毎年発表している「日本の広告費」において、屋外広告は「プロモーション広告」に分類されており、販売促進にかなり近いジャンルとされています。そういった意味では、いわゆる「4マス」と呼ばれるラジオ・テレビ・新聞・雑誌とは若干位置づけが異なります。これは人々の購買行動の中心が店頭だった頃、マス広告と店頭を結び付ける役割が主な屋外広告の価値であったことから「プロモーション広告」に位置づけられてきた、というように理解できます。

 また屋外広告は、基本的に人がいる街中に広告出稿することに対して、皆さんが価値を認識されています。電車内にみられる交通広告も同様ですね。しかし、緊急事態宣言下で街に人がいなくなった際には、その広告価値が疑問視されました。前述の購買行動がEC等へと変化している昨今に加えて、これが昨年、2020年に起きた出来事です。

 一度目の緊急事態宣言下には極めてナーバスな状況でしたが、2020年末頃から徐々に人流が戻ってきました。そうした中で失われかけていた屋外広告の価値も徐々に回復しつつあります。

――2010年代、屋外広告の市場規模は拡大傾向にありました。デジタルテクノロジーが注目される時代、リアルな世界の広告市場で成長が見られた理由は何でしょうか。

山本氏 コロナ前には、特に若年層に対して広告が伝わりにくくなっていました。そこで、街に出て人がいることの価値、いわゆる「ロケーションバリュー」に価値を見出す企業が多かったのだと思います。そして、多くの若年層の誰もがスマートフォンを持ち歩き、SNSを通じて情報を拡散することが当たり前の時代だからこそ、屋外広告×SNSの組み合わせが媒体価値を向上させたのではないでしょうか。

 特に、渋谷のような街では、デジタルサイネージ自体が極めて多くなっています。以前は一枠しかなかった場所に複数の枠が配置されるようになれば、その分だけ市場規模が大きくなることも頷けます。

――人々の行動が変わる中、屋外広告のあり方にはどのような変化が見られたのでしょうか。

山本氏 先にお伝えしたとおり、屋外広告の特徴の一つは、売り場に近いところでユーザーに広告を見てもらえることです。私たちはその恩恵を「リーセンシー効果」と呼んでいます。これは、直前に接触した広告自体が直接の購買行動に結びつきやすい、ということを指します。また、ユーザーが自ら見ようとしなくても視界に飛び込んでくる「強制視認」の効果もあるでしょう。別の角度から見ると、偶然の出会いを生み出す「セレンディピティ・メディア」ともいえます。

 一方、検索エンジンやSNSで展開されているインターネット広告は、ユーザーの行動に応じて関心を持ちやすいジャンルの広告を表示させる仕組みです。そういった点を比べると、屋外広告は必然性だけではない偶然の出会いを演出できる点から、ユーザーの心を動かしやすいメディアなのではないかと思います。クリエイティブの力、表現力を駆使することで出会いを演出し、「誰かに伝えたくなるメッセージ」を発信している企業も少なくありません。