“街に人がいない” ことを逆手に取った戦略
――屋外広告の特徴を生かした事例として、どのようなものがありますか。
山本氏 例えば回転寿司をチェーン展開するスシローは、渋谷の「5面ビジョン」と呼ばれる屋外広告に衝撃的な広告を出して話題になりました。複数のビジョンを回転寿司のレーンに見立てたクリエイティブを展開し、「すしで、笑おう」というキャッチコピーの広告を掲出しました。
2020年5月の渋谷といえば、本当に閑散としている状況でした。そんな中、同社が実際に渋谷で撮影し、公式SNSに挙げたプロモーション動画は、YouTube・Twitter等でバズを起こし、その動画の再生回数は110万回を超えました。
【動画】スシローが渋谷で展開した大型デジタルサイネージ広告(外部リンク)
先ほどお伝えした通り、従来の屋外広告の価値の多くは「その場に人がいる」というロケーションバリューにありました。しかし、渋谷の街に人がいないことを逆手に取り、そこに屋外広告として自社のメッセージを表現して、ソーシャル上での拡散を生み出したことは非常に興味深い展開だったなと思います。
その後のSNSでの同社の広告の評判を見ても、「スシローのイメージがすごく良くなった」「家にいて退屈していたけど、コロナが落ち着いたらスシローに行って寿司を食べようと思った」というように、ポジティブなものが多く見られていました。
――屋外広告自体を画面越しに見て、その企業のイメージが変わるのは不思議なことにも思えます。
山本氏 屋外広告といっても色々な形があるので、これまで多くの人が抱いていたイメージとは違うものも多いかもしれません。他には、同様に昨年の事例ですが、空調機器メーカーのダイキン工業が出した巨大看板での展開が話題になりました。
同社が展開するマスコットキャラクター「ぴちょんくん」の形をした屋外LED看板は、大阪・梅田と新大阪駅前に置かれています。その色が「大阪府新型コロナ警戒信号」に合わせて変わっていき、その様子がテレビの天気カメラやSNSによって広まっていきました。
――偶然性が高い中で広告を目にしたほうが、人の心に残りやすそうですね。
山本氏 そうですね。そしてクリエイティブの仕掛けの面白さだけでなく、そこで発しているメッセージと企業のパーパスがうまくシンクロしていることも重要だと思います。
スシローは当時、多くの日本人がナーバスになっている状況で、日本全体を意識したメッセージを打ち出しました。通常のCMでもそうしたメッセージを出すことはできます。ですが、「渋谷の街中に行きたくても行けない」というタイミングだからこそ、その渋谷の街からメッセージが届いてくることに加えて屋外ならではの立体的なクリエイティブ表現をもって、それまでの広告とは感じ方が違うように思えたのではないでしょうか。