コロナ禍だからこそ求められる「人々に寄り添うメッセージ」
――他の屋外広告については、コロナ前と比べてどのような変化があったのでしょうか。
山本氏 人流が変わり、最初に厳しい状況に陥ったのが電車広告でした。しかし、この数カ月で乗降者数も以前の7~8割程度まで戻ってきている状況です(2021年7月時点)。
電車に乗っていると、感染リスクやマスク着用のマナーなど、色々なストレスが渦巻いているように思えます。そうした中ということもあり、以前は見られなかったジャンルの広告出稿も増えました。例えば、リモートワーク用の商材やデリバリーサービスです。
中には、「あ~今日も疲れた~。リモート会議はコミュニケーションがうまくいかないし…」というように、電車に乗っている人たちの声を代弁したコピーを打ち出す広告も見られました。このバスクリンの入浴剤の広告には隠れメッセージが含まれていて、頭文字を縦読みすると「いいフロの日よ」(11月に実施)「あ~コロナ終われ」「コロナに負けるな」と書かれていることがわかります。
デジタルサイネージでは15~30秒の表示の中で、どうしても読み飛ばされてしまうことが多いものです。一方、電車の中吊り広告はじっくり読んでもらうことができるので、気持ちに染み込ませるような表現・メッセージが増えてきたともいえます。
――このような変化は日本ならではのものなのでしょうか。
山本氏 海外は日本と比較して、屋外広告のデジタルシフトが非常に進んでいます。イギリスの屋外広告に占めるデジタルの割合は6割程度、アメリカが4割弱ですが、日本はまだ2割に届いていません。
こうした中、海外ではポスター媒体自体がデジタルサイネージに変わる例も増えており、データに基づいて運用型で配信を行うプログラマティック広告も出てきています。しかし、実際に運用が行われているのは全体の1割に満たないようです。こうした状況を踏まえると、今後は適材適所でデジタルとアナログを使い分ける方向に進むと考えられます。