一軒の焼き鳥屋から始まり、「丸亀製麺」の大ヒットから東証プライム上場を果たしたトリドールホールディングス(HD)。今や国内外に約20の飲食ブランドを持つまでに成長したグローバルフードカンパニーは、なぜ次々と繁盛店を生み出せるのか。本連載では『「感動体験」で外食を変える 丸亀製麺を成功させたトリドールの挑戦』(粟田貴也著/宣伝会議)から、内容の一部を抜粋・再編集。「外食は最も身近なレジャー」をコンセプトに快進撃を続けるトリドールの戦略ストーリーと、成功の源泉とも言える独自の経営論について、創業社長・粟田貴也氏が自ら明かす。
第3回は、飲食業界の省人化の流れに逆らい、社員やスタッフの増強を続けるトリドールHDの戦略に注目。丸亀製麺で実施している独自の「麺職人制度」など、人の力を店舗の強みとする経営手法に迫る。
省人化の時代に「増人化」する意味
トリドールはこれから、この時代にはありえない方針に舵を切ろうとしています。傍から見るとそれは、風車に突撃したドン・キホーテのように、愚かしく、無謀に見えるかもしれません。それでも、我々の行くべき道はこちらにある。トリドールは、労働力人口減少による飲食業界の省人化の流れに逆らい、社員・パートナースタッフを増やし、さらに手厚く迎え入れます。
これからますます少子高齢化が進み、就業人口が減っていくことが予想されています。ただでさえ慢性的な人手不足の飲食業界は、ますます求人難になり、人件費は高騰するでしょう。さらに、2022年からはロシアによるウクライナ侵攻などの影響で、エネルギー費用も高騰。ガス代や電気代は驚くほど値上がりしました。物流が滞り、食材費も上がりました。
しかし、日本は失われた20年、いや30年と言われるほど経済成長が停滞しており、平均収入はほとんど変わっていません。海外の先進国では、賃金が上昇傾向にあるというのにもかかわらずです。このような社会的な事情から、丸亀製麺でもメニュー価格は極力上げてきませんでした。コストの上昇分を価格転嫁すると、お客様が離れてしまうリスクがあったからです。まさに飲食店にとっては危機的状況だと言えるでしょう。
このような時代に脚光を浴びているのがフードテックです。チェーン店などを中心に、調理も接客もロボット技術が導入されつつあります。
私もファミリーレストランで配膳ロボットを見たことがあります。オーダーはタッチパネルで、配膳はロボット。店員と顔を合わせるのは最後の会計時だけでした。そうすると、大型の店舗でもアイドルタイムであれば一人か二人でまわせるのです。会計に自動支払機を導入すれば、入店から退店まで人と接しない、というオペレーションも可能になります。
こうしたデジタル化・ロボット化の技術は、人手不足の問題を解決する救世主のようにもてはやされています。私も時代的に必要な技術であり、需要は伸びていくだろうと予想しています。ただ、我々の歩む道ではない。