一軒の焼き鳥屋から始まり、「丸亀製麺」の大ヒットから東証プライム上場を果たしたトリドールホールディングス(HD)。今や国内外に約20の飲食ブランドを持つまでに成長したグローバルフードカンパニーは、なぜ次々と繁盛店を生み出せるのか。本連載では『「感動体験」で外食を変える 丸亀製麺を成功させたトリドールの挑戦』(粟田貴也著/宣伝会議)から、内容の一部を抜粋・再編集。「外食は最も身近なレジャー」をコンセプトに快進撃を続けるトリドールの戦略ストーリーと、成功の源泉とも言える独自の経営論について、創業社長・粟田貴也氏が自ら明かす。
第6回は、粟田氏が意識する「弱者の経営」について紹介する。国内外で年間250店もの新規オープンがあるトリドールにおいて、そのスピード感を実現している“人任せ”の経営スタイルとは?
大きな目標を達成したいから、すべてを自分で握らない
私は海外展開が本格化してから、ふとした時に「今日もどこかの国でトリドールの店がオープンしているのだ」とはっとすることがあります。
世界各地にいるトリドールのグループ企業の社員やローカルバディ、店で働くスタッフの方々が、今この瞬間にも食の感動体験を生み出している。アメーバが増殖するように、トリドールの食の感動体験が世界中を覆って広がっていくようなイメージが頭に浮かぶのです。
現在のトリドールでは、国内外合わせて1年で約250店を出店しています(2023年度実績)。そのすべての意思決定を私が担っているのか。
答えはノーです。私が細部まで逐一確認することはできないので、各業態の責任者に任せています。特に海外店舗は、私が判断するよりも現地の経営者に任せたほうが、正確かつスピーディーに出店できます。その後の成功確率も上がるのです。
世界で通用するグローバルフードカンパニーになる、という夢は途方もなく大きいものです。尋常な手段では、目標までの距離を縮められません。私一人でコツコツやっていたら、生きているうちに達成できるかわからない。限りある時間で最大限の跳躍を試みるには、複数人で、複数業態、複数戦略を走らせなければ間に合わないのです。