一軒の焼き鳥屋から始まり、「丸亀製麺」の大ヒットから東証プライム上場を果たしたトリドールホールディングス(HD)。今や国内外に約20の飲食ブランドを持つまでに成長したグローバルフードカンパニーは、なぜ次々と繁盛店を生み出せるのか。本連載では『「感動体験」で外食を変える 丸亀製麺を成功させたトリドールの挑戦』(粟田貴也著/宣伝会議)から、内容の一部を抜粋・再編集。「外食は最も身近なレジャー」をコンセプトに快進撃を続けるトリドールの戦略ストーリーと、成功の源泉とも言える独自の経営論について、創業社長・粟田貴也氏が自ら明かす。
第4回は、トリドールHDが他の外食企業同様に直面する「従業員の高い離職率」を下げるための経営改革について紹介。今いる人材に働き続けてもらうため、採用難の時代に組織に求められる考え方とは?
採用難の時代への備えは、まず離職を減らすことから
この章の冒頭で少子高齢化により就業人口が減っていくという社会の変化についてふれました。その変化が進むと、今後さらに採用難の時代がやってくることは明白です。
「そんな時代にも人を採用し続けられるだろうか」と思案する中で、「いかに人を採用するか」の前に「いかに今トリドールにいる人が働き続けてくれるか」を考えなければいけないことに気づきました。
頻繁に人が辞め、そのたびに採用するこれまでの流れを変えて、人が長く働き、居続けてくれる仕組みをつくらなければ。しかし、そんなことが可能なのだろうか。
悩んでいた2022年12月頃、アメリカの家電量販店・ベスト・バイの元CEOが書いた『ハート・オブ・ビジネス』(ユベール・ジョリー著、英治出版刊)という本を読みました。その本では、危機的状況にあったベスト・バイが、パーパス(企業の社会的存在意義)を定め、そのパーパスと人を中心に据えた経営に切り替えたことで、個々人が協働する人間らしい組織として生まれ変わり、業績がV字回復した軌跡が書かれていたのです。
特に私の心に刺さったのは、人のつながりを大事にして、一人ひとりが生き生きと働ける環境をつくることで、従業員が「信じられないパフォーマンス」を発揮したという部分。これがまさに、私がトリドールで目指していたことだったからです。本当に実践し、実現した会社があったのか、と気持ちが晴れていきました。しかも、ベスト・バイはECの台頭などで縮小傾向にある家電の小売業態でありながら、人を大切にすることで苦境を乗り越えた。その事実に強く背中を押されたのです。