トリドールの店にお客様が足を運んでくださるのは、そこに体験価値、すなわち感動があるからです。人の手による調理・サービスは、工場生産やマシン製造、ロボットよりも確実性が劣る部分はあります。機械のアウトプットは安定していて、お客様の期待を裏切らないでしょう。でも、期待を超えることもない。

 昨日よりも今日、今日よりも明日、いいものを提供したいという人の思いと努力が、お客様の期待を超える体験を生み出すのです。

 そして、省人化された店舗で感じた一抹の物足りなさ。これは私が60代だからかもしれませんが、やはりどこか味気なく感じたのです。もちろん、人と接点がないことをスムーズで好ましいと感じる人がいることも理解しています。ただ、一律で人手不足に対し省人化という答えを出すのは、顧客不在の考え方ではないでしょうか。

 省人化によってお客様が来なくなったら、本末転倒です。人が生み出す感動を強みとしているトリドールの店では、省人化による客数減は十分に有り得ること。お客様に来てもらえないと、いくらコスト削減できても長期的には経営が成り立ちません。逆に強みを磨くことで来客数が増えれば、人件費などのコストがある程度かかったとしても、結果的には吸収できるという仮説を立てています。

 とはいえ、この時代にさらに人件費を増やして人を雇っていくのは、おかしいと思われるようなことかもしれません。時代に逆行しているのも理解しています。ただ、他の人がやらないということは、やり抜けばオンリーワンの存在になれるということです。私の中では、勝ちに行く気持ちで、人を増やそうとしています。

 事実、丸亀製麺では2023年になって過去最高売上を達成する店舗がいくつも出てきています。その理由を、丸亀製麺事業を任せている株式会社丸亀製麺・山口寛社長に聞いてみると、「2年前、1年前よりも人が揃ってきたことが大きい」という答えが返ってきました。やはりトリドールにとっては、人が成功の源泉なのです。