印刷業界の若手が語る
「私たちの今、そして未来」

デジタル化が進む最前線で格闘中の若手5人が本音で議論

JBpress/2020.4.1

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 今、あらゆる産業において、デジタル技術を活用し既存のプロセスやビジネスを自ら変革し、新たな価値を生み出していく「デジタルトランスフォーメーション」が全世界で叫ばれ、日本企業にもその波は押し寄せてきている。この流れは時にはこれまでのエコシステムを破壊し、新たな勝者を生みながら市場を変えていくことに加え、グローバルを分断なき世界へと動かしていく。その一方で過去の成功体験から抜き切れず、なかなか変革を遂げられない企業も多く存在するのもまた事実のようだ。特に日本市場は、少子高齢化により労働人口の減少を主たる要因に、経済全体が縮小してくことが各方面から予想され、こうしたデジタル変革には生産性や事業の収益性を改善していく目的もあわせもつ。デジタル変革への取り組みは企業の大小に関わらず、どの産業のどの企業に対してもその未来を描くには避けて通れない取り組みになっているのは間違いない。

 印刷業界の現状はどうだろうか。データを中心に据えた経営の見える化から始まり、RFID技術を活かした生産現場のデジタル化、デジタルチャネルの拡大による顧客との接点把握とそこから生まれるデータ活用、そしてデジタル印刷技術の本格導入によるパーソナライズされた新しい印刷形態の提供など、先進企業を中心にデジタルトランスフォーメーションへの取り組みは多様な形で進んでいる。その一方でデジタル印刷に関するマーケットの拡大という動きに目を転じると、課題もまた見え隠れする。日本印刷産業連合会の調べ*によると、2018年の時点で8割以上の印刷会社が既に産業用デジタル印刷機を保有している一方で、デジタル印刷機を保有している企業のデジタル関連売上比率はまだ11.2%に留まっている。このスピードは世界市場から見ると劣っているのは事実である。変革へ向け、積極的に取り組む姿勢が成果につながっている企業もある一方で、変革の途上にある企業も存在するようだ。

 そこで今回は、最先端の産業用デジタル印刷機を保有し、積極的にデジタル化を進める複数の印刷会社から、印刷業界の現場で日々奮闘する平成生まれの20代を中心とするデジタルネイティブ世代の若手印刷パーソン5人に集まってもらい、デジタル時代の印刷業界のビジネスの現状や未来について、どのような思いを抱えながら仕事に取り組んでいるのか、座談会形式で語り合ってもらった。

*印刷業界におけるデジタル印刷に関するアンケート調査
https://www.jfpi.or.jp/files/user/pdf/digital2018.pdf

激変する印刷市場で若手社員が担う役割

-皆さんの現在の職務について教えてください。

石原謙さん(凸版印刷 2015年入社):私は営業職に就いており、主に大手出版社発行の幼児雑誌などを担当しています。誌面内容の企画が頻繁に変更されるため、それに対応して迅速に動く必要があるのですが、それは時代の変化とは関係なく昔からあることと聞いていますし、印刷会社のフロントマンとしてのやりがいは、こうした変化に対応していくところにこそあるのだ、と捉えています。とはいえ、時代は確実に変わり、エンドユーザーである読者層の価値観に寄り添っていくために出版社が挑もうとしているチャレンジに、我々印刷会社は本当に最適な価値を提供できているのだろうか、というようなモヤモヤを抱えているのは事実。近年の特徴として実感しているのは、雑誌に添える付録の企画が重要性を増していて、単に紙に印刷することだけを考えていればよい状況ではなくなっている点が不安を大きくしています。

太田裕子さん(トッパングラフィックコミュニケーションズ 2016年入社):私は企画・制作職として、お客さまからの要請を受けて、店頭用ツールやウェブなどを提案し、納品段階までコミットしています。主に百貨店をはじめ大手流通業のお客さまを担当していますが、中国からの観光客を主とするインバウンドへの対応もあって、店頭用のPOP制作や 多言語ツール制作などのニーズが非常に高くなっています。短納期・小ロットの案件が多く、デジタル印刷を頻繁に利用しています。今後、お客さまからさらなる短納期を求められることも考えられるため、ますますデジタル印刷をはじめとした知見を深めなければいけないなと思っています。技術の進化を積極的に採り入れているチームにいるからこそ、現状どれだけ有効活用できているのか、もっとやれることがあるのではないか、という意識が私の中にはあります。

 

佐々木拓哉さん(フジプラス 2012年入社):私は入社時にはいわゆる印刷会社としての生産管理業務に携わっていましたが、その後、現在のアカウントセールスのチームに移りました。単なる営業職というよりも、オフセット印刷やデジタル印刷などの当社の技術を媒介しながら、最近ではコミュニケーションプロバイダーとして提案することが主体になってきています。要はお客さまである企業が“売れる仕組み”を構築するためのお手伝いをしているので、マーケティングについての話し合いをしたり、時にはAPIのプログラミングを私自身がいじったり、かなり幅広い業務に携わっています。印刷を請け負うことばかりが私たちの使命ではないのだという当社の新しい姿勢に、私自身は共感し、積極的に取り組んでいるつもりでも、まわりが皆同じ意識や視野で仕事を捉えているのかというと、まだまだ私も含めて試行錯誤が続いている感覚はあります。

佐々木貴浩さん(精工 2009年入社):精工は農産物の包装に関わる事業で成長してきた会社なのですが、特にその包装資材であるフィルム素材への印刷技術で評価をいただいています。私は業界に先駆けてデジタル印刷に取り組んでいるつくば工場に勤務し、HPのデジタル印刷機「HP Indigo」のオペレーターをしています。個人としての仕事にはある程度の納得感で臨んでいるものの、組織として最新鋭のデジタル印刷の仕組みを生かし切れているのかどうか、という面では自分なりに課題を感じている今日この頃です。

相澤泉さん(精工 2016年入社):私も同じく精工のつくば工場に勤務しています。役割としては実際の印刷に取り掛かる前の工程を担当しており、大小さまざまな規模のお客さまからいただいたデータをデジタル印刷に掛けていける状態に整えていくオペレーションに携わっています。技術職ですから、お客様に対峙するというより、基本的には外部から集まってくるデータの処理に追われる日々なのですが、やりがいもある反面、なかなか解決していかない課題を前にして「このままの働き方でいいのかな」という疑問を抱え始めています。