印刷業界の若手が語る
「私たちの今、そして未来」

デジタル化が進む最前線で格闘中の若手5人が本音で議論

JBpress/2020.4.1

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変革のための課題は社内の世代間コンセンサスにあり!?

-今現在抱えている課題、悩み、不満などについて、本音を教えてください。

相澤:フィルムという素材に印刷するためのデータや色見本をお客さまからいただくのですが、その大部分が紙などの異素材に印刷した物だったりデータだったりするんです。そのまま用いれば必ず色目が違ってきてしまうため、私たちのところで調整をしなければいけなくなります。お客さまが印刷の専門家では無いことは分かっているものの、「印刷までの工程を少しでもご理解いただくためには、どうしたら良いんだろう」という気持ちになることもあります。

佐々木(貴):相澤さんと私は違う工程に携わっていますが、やっぱり似たようなことを感じています。先端のデジタル印刷技術を備えていることを強みにするためには、その現場でどういう要素が不可欠になるのか、という理解を広く社内で高めていくことが必要ではないかと考えています。「お客さまは印刷のことがわかっていない」とか「うちの営業にはもっと最新技術のことを理解してもらわないと」とか、そういう不満を私たち技術職の人間が一方的に愚痴っているだけでは、何も改善できないのだということはわかっているんですけれどもね。

太田:佐々木(貴)さんや相澤さんと同じく、私もデジタル印刷を用いるケースの多い現場にいます。というのも、「短納期で低コスト」という条件のある案件が増えているからなのですが、そればかりが今後の印刷業界に求められるという状況にならないよう、まず現場から働きかけていく必要があるなと思っています。たとえば同じデジタル印刷でも、先日は特色を使用した高品質DMを制作させていただきましたし、そういった付加価値のある作品を受注していきたいですね。

石原:私が日々感じているのは、「印刷技術のデジタル化もいいけれど、日々の業務プロセスに現状以上にデジタルやITの技術を導入できないものか」という気持ちですね。私は営業ということもありお客さまと直接向き合う機会が多いですし、急な企画変更があるので、その都度改めて見積もりを出す場面に遭遇するんですが、例えばクリック1つで新しい見積もりを提示できるようになれば、浮いた時間をもっと有効に使えると思ったりするんです。

佐々木(拓):先ほど自己紹介の際にお伝えしたように当社はいわゆる印刷業オンリーな態勢から、新しいビジネスモデルへとシフトしているのですが、それもあって年代や世代によるギャップというのを強く感じています。古き良き時代と呼んでいいのかどうか分かりませんが、昔は刷ったら刷っただけ売れていたと思うんです。その時に培った技術や仕組みがあるから今の会社が成り立っているんだということも理解しているつもりなのですが、どうしても上の世代と意見が食い違う場面があります。若い年代の発想が常に正しいとは思っていませんが、一度受け入れた上で意見を伝えてほしいという願望がありますね。

太田:私はむしろ周囲の先輩たちが発揮しているクリエイティブな部分に刺激を受けますし、お子さんのいる先輩女性がしっかり子育ての時間を確保しながら仕事もきっちりやっていて、すごく触発されるものがあります。

石原:私も何年か上の先輩には、とても学ばせていただいていて、理解もしていただいている感覚はあるのですが、40代、50代の上司たちが普段何を考えていて、どう動いているのかが見えにくいように思うことがあります。佐々木拓哉さんが言うようにもっと世代を超えて互いに理解し合う必要があるように思っています。

佐々木(貴):私も佐々木(拓)さんと同じ心境です。私たち最前線にいる人間の声を全て肯定してほしいわけではなくて、とにかく一旦は聞き留めてほしいんですよね。その上でなぜ違うのかを教えてくれれば、何を考えているのか理解もできますし、私たち自身も成長に役立てることができるのではないかと思います。

相澤:先輩方は経験豊富なので、「こういう場合はこうすれば良いんだ」というのがご自分の中だけで完結していることもあります。こちらの理解が十分に及ばない中、猛スピードで工程を進められてしまうと、私たちも納得できないですし、成長したいのに学びにつながりにくく、結果的に効率は上がらないと思ってしまうこともあるんですよね。

印刷ビジネスの未来。技術、働き方、組織はどう変わる?

-未来の印刷業界について皆さんの考えを教えてほしいのですが、ひとまず今から10年後を想定した時、どんな変化が訪れていると思いますか?

石原:まず大量印刷の時代ではなくなっていると思います。今でさえ、通勤電車内で紙の雑誌を読んでいる人の姿はほとんどなくなり、みんながスマホを見ていますよね? ラーメン屋さんとか病院の待合室など、特定のシチュエーションではいまだに雑誌を眺める光景を目にしますが、いずれそういう情景も減っていって、印刷物はOne to Oneの色合いの強い製品に変貌するはず。そうなれば、デジタル印刷の特性をより生かしていく状況になるでしょうし、営業職の仕事の進め方自体にも大きな変化が来ると考えています。

太田:今、凸版印刷では現場レベルでも五感に訴える手法というのを取り入れ始めています。従来の印刷技術を応用して、「平面に文字や画像をプリントする」以外の多様なチャレンジを10年後はこれまで以上に行うようになっていると思います。いわゆるデジタル印刷だけでなく、使う技術もさまざまに広がるでしょうし、私たちもまた幅広い発想が問われるようになると思います。

佐々木(拓):One to Oneになって、利用技術も多様に広がって、という部分については私も同じ発想です。ただそうなった場合、10年後なのかどうかはさておき、「一度全てがデジタルに置き換わった後、『だからこそあえて紙を使おうよ』というような振り戻し」のニーズも生まれてくる気もしています。

佐々木(貴):私も皆さんと同じ考えなのですが、技術的な仕事が多い部門としては、「One to Oneで小ロット・短納期が当たり前」な世の中にならなかったとしても、印刷機の主流がデジタルに移行するはずだと考えています。現状はまだ相対的なスピードでグラビア印刷に劣るデジタル印刷機も、間違いなく進化して追い抜く日が来ると思っています。そうなれば、今デジタル印刷技術の第一線にいる人の仕事の価値も大きく変わるでしょうね。

相澤:精工では私たちより一世代上の30代の方たちが中心となって、さまざまな印刷工程上のシステムを新しいものへと変えていこうとしています。ですから、この世代を中心としながら、職場環境や組織まで変わっていく時期が10年後くらいには訪れるんじゃないかなとむしろ私は期待しています。

石原:組織面での変化について考えると、私のような営業職の在り方も変わると思っています。従来は得意先や担当業種ごとに部門も分かれていましたが、お客さま側のニーズも多様化して、私たち印刷会社側の技術や対応も細分化していくと、どこかのタイミングからは、その都度得意分野や強みに応じた組織編成が必要な時代になるはずだと思うんです。もちろん、「お客さまとどこまで信頼関係を築けるか」は変わらずに問われると思いますが、同時に「どんな強みや得意分野を持っているか」が印刷会社の営業パーソンには求められるようになるのではないでしょうか。

佐々木(拓):そういう方向で捉えると、印刷会社同士の関係性にも変化は及ぶような気がしますね。今までは単に競合相手だったのが、そうではなく各社の強みを尊重しながら共同体を形成してプロジェクトを一緒に進めたり。

-部門や役割を超えて、あるいは会社の枠組みを超えて、皆で業界の未来のことを話し合ったり、デジタルなど新しい技術や案件の動向について情報交換をしたりするような場はあまりないのでしょうか?

佐々木(拓):今日ここで皆さんと会って、いろいろと話ができましたけれども、こういう機会をもっと増やしていければ、きっともっと前向きな空気が生まれますよね。

相澤:私は技術職を続けてきたせいか、なかなか他部門の方とお話する機会がなかったのですが、今日のこの場はとても新鮮ですし、良い刺激になっています。

佐々木(貴):本音を言えば、社内でももっとこういう機会があれば良いのに、と思いますね。