新型コロナウイルスの感染拡大により、猛スピードでビジネス環境が変化している昨今。不確かな時代はますます長引き、ビジネスも先行きが曖昧な状態が続いている。それは印刷業界も例外ではない。そんな時だからこそ、今後どのような事業戦略を立て、手を打っていくかが問われている。
これからの印刷業界はどこへ向かうべきか。経営のプロフェッショナルファーム、山田コンサルティンググループ株式会社の経営コンサルティング事業本部マネージャー 久保俊一郎氏(以下、久保氏)と同ITコンサルティング事業部 副部長の石塚淳氏(以下、石塚氏)に、今後の経営のあり方について聞いた。
縮小傾向にある印刷業界に足りていないもの
昨今の印刷業界、とりわけ商業印刷の分野は、高速化を続けるインターネットと新たなテクノロジーの台頭により、マーケティング手法やプロモーション活動の変化を受け、平成から続く縮小傾向は今なお続いている。さらに、コロナ禍で人々の生活様式、働き方が大きく変わる中、さらなる変化のあおりを受けつつある。
この概況について、久保氏は「2006年は約7兆円あった市場規模も、2014年までに年平均で2.7%ほど減少しています。2026年までこのペースが続くと市場規模は4兆円にまで縮小し、単純計算で20年の間に3社に1社はなくなることになります」と話す。
続いて提示された業種別の資産と自己資本比率の割合のデータからは、印刷業界は投資効率を示すROEが低く、自己資本率は高いことが見て取れる。特に、ROEはさまざまな業種の中でも最低クラスだ。この現状について同氏は「多くの印刷会社はすぐに危機に直面することは考えづらくとも、投資効率は悪いと言えることから、生産性向上は長年の課題」と説明する。
この現状は、「新規投資を行って利益を獲得し、継続的成長を狙う」といったサイクルが、他業種に比べて不十分とも捉えられる。あらゆる業界に破壊的イノベーションの脅威が迫る今、各社に変革が求められていることは間違いない。しかし、印刷業界には変革を阻む特有の事情があるという。