自前主義から戦略的提携へと舵を切れるか

 中堅・中小企業の目線からこれらの打ち手について考えた時、発想転換が必要なM&Aのハードルは極めて高いように思える。この点について久保氏に尋ねると、「M&Aまでは難しくても、自社に足りない機能に関しては他社と提携をして進めていくべき」と話す。M&Aと聞くと、事業の売却をイメージする方はまだまだ多いだろう。しかし、多くの企業が自前主義の限界に直面しているからこそ、戦略的事業提携を含めた柔軟な発想が求められている。

「例えば、マーケティングの自動化を進める企業が増えている今、そのような企業と提携を検討することも選択肢の一つです。そうすることで、自動化されたプロモーション施策と併せて、DMやチラシの制作、印刷のクロスセルが可能になります。このように、他社とのアライアンスを広げていくことが、生き残りを実現する道の一つではないかと思います」(久保氏)

 自社にマーケティングのノウハウが無くても、戦略的提携を行う企業がその強みを有していれば、新たな事業領域への参入が可能になる。もちろん、そこでは印刷業と異なる業種や分野にばかり目を向ける必要はない。事業の多角化を考えるのならば、EC領域を得意とする企業と提携して新たな需要を獲得したり、大判印刷の分野で高付加価値な印刷サービスを生み出したり、といったことも考えられるはずだ。

 では、経営者が社外に目を向けて様々な可能性を模索する中、どのような意思決定を下せばよいのか。事業戦略を再考するにあたり、次のような視点が重要だと久保氏は強調する。

「なぜ、その事業に着手するのか、その理由が非常に重要になります。『自社の大義は何か』『なぜ、自社がこの事業に取り組んでいるのか』を明確にして、従業員と対話を行い、計画に落とし込んでいかなければ、事業の方向性はぶれてしまいます。事業戦略の検討において、必ずしも新しいことに取り組まなくても構いません。現在のビジネスの効率化、生産性向上によって持続的成長を目指すことができるならば、それでも良いと考えます」

 新たな技術や領域への挑戦は「目的」ではなく、「手段」に過ぎない。だからこそ、経営者が既存事業の「今」と自社の「強み」を見極め、未来を冷静かつ客観的に予測した上で、次の一手を選ぶ必要があるのだ。