事業戦略は自社の強みに立脚しているか

 新たな事業戦略を検討する時、必ずと言っていいほど論点に挙がるのが「何を自社の軸に据えるか」だ。バリューチェーンの拡大やテクノロジーの活用、戦略的事業提携など、どの戦略オプションを選ぶにあたっても、「核となる自社の強み」の定義は欠かせない。この点について久保氏は、次のように力を込めた。

「自社の強みは、企業理念やビジョンなどから紐解いていく方法が一つ。もう一つは、自社が創業からどのような施策をとって売上を伸ばし、どのように利益を創出してきたのか、数字で整理する方法があります。売上や利益率は当然上下しています。どのような施策、要因により数字が変動しているのか、その際の施策を深堀りすることで自社の強みが見えてきます」

 さらに、既存顧客との関係性についても言及した。印刷業界、とりわけ商業印刷を主とする印刷会社は、他の業界に比べて案件数が多いことが特徴だ。だからこそ、「顧客とのコンタクトポイントの多さを生かすことが重要」という。

「コミュニケーションの中で、既存顧客の課題やニーズをしっかりヒアリングし、それに対してソリューションを提供することが重要なポイントです。例えば、会社に資料やパンフレットを多く持つ企業が、コロナを機にリモートワークに移行するとなると、それらを確認するためだけに出社するのは非効率。そこで、会社に保管している印刷物をすべてデジタル化する事を自社のビジネスにする。そのようにして顧客のニーズに応えている企業もあります」(久保氏)

 こうした事例を踏まえると、特定の技術やノウハウ以上に「既存顧客との関係性」の中にこそ、新たな事業戦略を生み出すヒントがあるのではないだろか。縮小傾向にある印刷業界で新たな事業のあり方を考える上では、顧客の課題やニーズを深掘りしたり、顧客の顧客に関して徹底研究をした上で、対峙する顧客が気づいていない変化を提示し、新たな価値を創造したりすることが鍵と言えるだろう。