ネスレにおける令和時代の顧客問題解決法

アフターデジタル時代に進化するマーケティング最前線 Vol.2

JBpress/2020.4.13

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甲斐:まずはマーケットインサイトからの発想ということですね。非常にユニークなサービスで、私たちも「ネスカフェ アンバサダー」になろうということで、私が管理している当社のショールームにも導入しました。成功の要因は何だったのでしょう。

石橋:競合するのは既存のオフィスコーヒーサービス、社内の自販機、最近はコンビニコーヒーなどがありますが、おいしくて、なおかつリーズナブルな価格となるとなかなか見当たりません。「ネスカフェ ゴールドブレンド バリスタ」のコーヒーマシンがあれば、ボタンを押して1分以内には、おいしいコーヒーを手軽に楽しめます。しかも1杯20~30円程度です。
 
 実際に「ネスカフェ アンバサダー」を始めてから、これっていいサービスだなと気づかれたお客様はかなりいらっしゃいます。もう一つのメリットは、デジタル化が進んで、隣の人とも会話せずにチャットやメールでやりとりすることが多くなり、コミュニケーションが減っている中で、コーヒーマシンの周りに人が集まってきて、そこで会話が始まったり、新たなコミュニケーションが生まれたりして、社内コミュニティが形成されたことです。これはわれわれもまったく予想していなかったベネフィットでした。

 従来型の家庭内のみをターゲットとしたビジネスだけをやっていては、業績は右肩下がりで推移していくだけです。その落ち込みをカバーするには、「ネスカフェ アンバサダー」をはじめとした、家庭外でのビジネスをつくっていかないといけない。これまでの取り組みで得た気づきや知見を生かして、一層の強化を図っていきます。

甲斐:私自身が「ネスカフェ アンバサダー」をやっていてもう一つ気づいたことがあります。スターバックスのカプセルも提供している点です。これは競合製品では?ととても驚きました。

石橋:そうですね。2018年にスターバックスさんの家庭向け製品の販売権をネスレが取得し、2019年から各国で展開をスタートしました。コーヒーマシン「ネスカフェ ドルチェ グスト」のカプセルでもスターバックス製品を発売したので、「ネスカフェ アンバサダー」でも販売しています。

 スターバックスさんも少しアプローチは違ったとしても、コーヒー文化を日本により浸透させたいという点では志は同じです。オフィス内でよりおいしいコーヒーが飲まれ、そこからコミュニティが形成され、ビジネスシーンが豊かになりながら市場が成長するということに賛同いただき、協働体制ができたわけです。確かに新しい試みです。

昔はおいしいチョコレートがあれば、それでよかった

甲斐:飲料事業以外で重視している分野はどこですか。

石橋:「キットカット」について、環境への配慮から、2019年9月に外袋を紙パッケージに変えました。対象は主力の大袋タイプ商品で、品質を担保するために、個包装については引き続きプラスチックとなっていますが、外袋を紙に変えたことで、年間約380トンのプラスチック削減を見込んでいます。

 また、2025年までに100%リサイクル可能、あるいはリユース可能にするというコミットメントを発表しました。今回の「キットカット」のパッケージ変更はその最初のステップです。

甲斐:素晴らしい宣言ですね。そうした取り組みの背景には、SDGs(持続可能な開発目標)やサステナビリティ(持続可能性)といった、弊社(HP)も含めグローバル企業が地球上でビジネスを継続展開していくために今や必須事項になっていますが、日本企業にはまだまだそういった取り組みが少ないように感じます。ギャップはどこに起因すると思いますか。

石橋:日本企業とのギャップという意味では難しい質問ですが、ネスレはグローバルで最大級の食品・飲料会社です。世界中の投資家やNGO(非政府組織)から真っ先に注目を浴びる企業であることから、他社に先駆けて環境に配慮した形での活動が求められてきた経緯があります。

 その一方でネスレは、CSV(共通価値の創造)を根幹に置いてビジネスを展開してきたので、SDGsという言葉が出てくる以前から、SDGsの活動をしてきたとも言えます。国連が17の項目をつくり、2030年のゴールを設定していただいたことによって、弊社のこれまでの取り組みがSDGsの流れに合わせる形で世の中に伝えることができるようになったとも考えています。

 なお、ネスレはグローバルで2025年までに包装材料を100%リサイクル可能、あるいはリユース可能にすることを目指していくわけですから、その流れの中で日本でも先述の「キットカット」以外の製品でも、パッケージのプラスチック部分を減らすなどの取り組みを広げています。