ますます複雑化・高度化する経営環境の下、企業経営者はこれまで以上に適時的確なアドバイスと、プロジェクト実行に際してのサポートを求めている。シェル石油、日本コカ・コーラ、ジョンソン・エンド・ジョンソンなど、名だたるグローバル企業で経営の中枢に関わってきた新将命氏に、コンサルタントのあるべき姿を聞いた。
 

外部メンターとしてのコンサルタントの存在感

―日本企業はいま、どんな課題に立ち向かっているか整理していただけますか。

 少子高齢化による国内需要の頭打ちとシュリンクへの対応は言うまでもありません。ただ、消費の減衰に対して、いまだ対策を講じかねている企業が多いのが現状です。グローバル・ベースでの成長戦略の策定も急務です。企業を持続的に成長させるには、軸足を海外に移さざるを得ませんが、中長期かつグローバルな視点での目標設定は、国内市場のように簡単ではありません。そして、グローバル化に伴うダイバーシティへの対応。宗教も文化も価値観も違う社員が増えるなかで、社員の判断のよりどころは明確な企業理念です。

私が籍を置いていたグローバル企業、ジョンソン・エンド・ジョンソンは、企業理念によって、実に見事に社員をまとめ上げていました。市場環境や技術革新の急変に反応できる俊敏さも課題です。「将来の成功を妨げる最大の敵は過去の成功である」という教訓がありますが、日本の大企業にも、その教訓が必要な企業が少なくありません。そして最後は、グローバル・リーダーの育成。ダイバーシティを踏まえ、グローバル・レベルの経営ができる人材は、涙が出るくらい少ない。現在、最も枯渇している経営資源と言えるでしょう。
 

―課題を受け、事業のパートナーとしてのコンサルティングファームへの期待が高まっています。

 あからさまな言い方になりますが、ばか者と利口者、大利口者の違いはどこにあるのかと言えば、ばか者は自分の強みも弱みも知らない者です。利口者は強みと弱みがわかっている。そして大利口者は、自分の弱みを補ってくれる人を側に配する術を知っています。その時、外部メンター(師)として、コンサルタントは大切な存在となるでしょう。
 

―具体的に、優れたコンサルタントの条件とはどんなものになりますか。

 5点あります。まず、経営職の経験と実績があり、全体観や大局観を持っていること。2点目に、クライアントの経営者と、経営の三要素、つまりミッション(存在意味)、ビジョン(あるべき姿)、バリュー(経営判断の裏づけとしての価値観)をきちんと共有できること。唯我独尊的な価値観を持つコンサルタントは、成果を出せない。

3点目は、「インプリメンタビリティ」、つまり実行可能性に対する感性が研ぎ澄まされていること。クライアントに実行できる力があるかどうかを見定められないまま、立派な内容のアドバイスをするコンサルタントがいますが、それではダメなのです。どんなにおいしい料理でも、かみ砕く力が無ければ、栄養を吸収できず、お腹を壊してしまいます。

4点目が、成長持続性を担保できる提案をできること。長期的なベネフィットを見越したアドバイスができなければなりません。

最後に、人の心に対する感性が豊かなこと。ビジネス・スクールは論理や統計は教えますが、心は教えてくれません。しかし、組織やビジネスは人が原点であり、人が動かすものだからです。「人は論理によって説得され、情によって動く」のです。