(英フィナンシャル・タイムズ紙 2023年9月7日付)

福島県相馬市を訪れ、福島県産のももを食べるラーム・エマニュエル駐日大使(8月31日、写真:ロイター/アフロ)

 昔の米国の食料外交は分かりやすかった。

 アーノルド・シュワルツェネッガー(とかそれらしい人物)が東京に現れ、スーパーマーケットでブドウとピーマンを手にポーズを取り、米国の農産物をもっと食べるよう日本に命令するという具合だった。

エマニュエル米駐日大使のメッセージ

 8月末、日本が処理済みの放射能汚染水を海に放出していることを受けて中国が日本の水産物の輸入を禁止し、放出を非難する言葉を強めるなか、米国のラーム・エマニュエル駐日大使が東京の300キロ北にある福島を訪れた。

 大使はこれ見よがしに地元の魚を食べ、地元の桃を買い求め、家族にも食べさせると明言した。

 中国に発せられたメッセージは明確だった。我々の友人に手を出すな、日本の魚や果物に問題はない、ということだ。

 アジアで最近開催されている投資カンファレンスの際に多数の投資家が語っているように、投資家にとって厄介なのは、この米国外交の優先順位の変更が考え方の大幅なリセットを示唆しているように思われることだ。

 2年近く前に東京に赴任して以来、エマニュエル大使は中国に対し、外交官らしからぬ強硬な態度を取っている。

 ここで重要になる問題は、その強硬さはどの程度まで本国の承認を得たものなのか、どの程度までが党の垣根を越えた永続的なワシントンのコンセンサスなのか、そして現実的に言って今後弱まる公算がどれほどあるのか、という3点だ。