この場合、この発明αが最も良い形で世の中に出ていくことと、准教授A氏個人の人生の幸せの両方を追求するためのビジネスプランには、どういったものが考えられるでしょうか。もし紙面が許せば、たぶん私はどこまでもプラン案を書いてしまいますが、シンプルかつ比較的幸運な例を3つ挙げます。

(1)大企業が300万円で基本特許を買う。発明αの価値を考えると安いが、実用化した暁には、売上の0.5%ずつが大学とA氏のそれぞれに支払われる。発明αは、大企業の研究開発プロジェクトとして十分な予算の下で、実用化までに必要なさまざまな知識とスキルを十分に有する経験豊富な数多くの人材達とともに、販売に必要な許認可取得を確実に遂行できる組織力を活用しながら、実用化を目指した開発を進める。またA氏は、大学のポストと並行して大企業の研究開発顧問として、実用化プロジェクトにも技術開発顧問として、月50万円のお給料で参加する。

(2)准教授A氏の妻が社長となる、A氏が100%保有する資本金100万円の個人会社を立ち上げる。発明α特許の実施権を、関心を寄せてくれたさまざまな企業に提供することで、大学と個人会社のそれぞれに年間600万円ほどのロイヤリティ収入が入り続ける。また、実用化した暁には売上の0.5%がこの会社と大学のそれぞれに入る。A氏とさまざまな企業の研究者達との活動の中で、さまざまな情報や価値観を共有できるため、A氏がさらなる発明β、発明γを思いつくことは間違いなく、個人会社のロイヤリティ収入は将来的にさらに増えるであろう。また、許認可取得のような、学者であるA氏が関わってもあまり意味がない仕事には携わらなくて済むのも、A氏にとっては魅力的である。

(3)発明αを実用化するベンチャー企業を立ち上げる。大学の副業規定の関係で、准教授A氏は取締役CTOとして参画する。幸いにも、教え子の中でも最も優秀で有名外資系コンサルに勤めるB君が「ぜひ自分も参加したい」と熱心に言うので、B君を代表取締役CEOとする。A氏は妻に怒られながらも500万円を出資、10歳年下なのに自分より高給取りの教え子B君は1000万円も出資すると言われ驚く。すぐに株価を3倍に釣り上げて最低限必要な5500万円をベンチャーキャピタルから調達し、2年後に5億円、4年後に30億円を調達し、5年後には300億円でマザーズに上場するというプランをB君が立てた。A氏の役員報酬については知らされていない。
 

 もし、読者の皆さんが准教授A氏の親友であったら、どのビジネスプランを勧めますか?

 どのビジネスプランが准教授A氏に合っているかを考えるためには、A氏が今後、大学で何を成し遂げたいのか、発明αの実用化に伴う許認可取得や人事関係の揉め事などさまざまな苦難に向き合うことが得意な人かどうか、さらに発明α以降も次々と発明をし続ける自信があるかなどの、A氏の仕事に対する動機や能力を考える必要があります。

 それに加えて、A氏の実家は資産家かどうか、マンションのローンがどれくらい残っているのか、子供が何人いて公立なのか私立なのかのようなプライベートな情報まで勘案して考えないと、A氏の人生にとって、どのプランが一番良いかなど考えることさえできないということが分かるのではないでしょうか。