なぜ原油価格は地政学リスクでも上がらないのか

原油市場に供給過剰の懸念、下落トレンドは時間の問題か

2018.08.03(金) 藤 和彦
    http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/53726
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 トランプ大統領のイラン制裁の強硬姿勢(イランの原油輸出をゼロにする)は口先だけではないかとの指摘もある(7月24日付ロイター)。イランの原油輸出(日量270万バレル)が全量停止すれば米国内のガソリン価格は高くなり中間選挙で不利になるからだ。

 米エネルギー省の最新の分析によれば、世界の原油供給量は日量1億バレルを突破しており、世界の総原油供給量は今後も右肩上がりで増加していく可能性がある。

 さらに市場関係者の間で、需要面での心配も意識されるようになっている。それは、米中の貿易摩擦が原油需要に与える悪影響である。

 アルゼンチンのブエノスアイレスで開催されたG20財務相・中央銀行総裁会議は7月22日、「貿易摩擦や地政学的緊張を背景に世界経済の下振れリスクが高まっている」とする共同声明を採択した。貿易戦争に対してトランプ政権が強硬であるとの認識が原油トレーダーの間でようやく浸透してきた(7月23日付ロイター)。

2014年の逆オイルショックとの類似点

 筆者は現在の状況が「逆オイルショックの再来」が生じた2014年6月に類似しているのではないかと感じている。

 2011年から1バレル=100ドル前後で推移していたWTI原油先物価格は、2014年6月半ば以降軟調となり、その後、半年で50%急落した。

 急落の発端は同年6月にサウジアラビアがイスラム国の樹立宣言に動揺した原油市場を鎮静化させるために日量15万バレルの増産を行ったことにある。当時アナリストらが「原油価格は114ドルを超えてどこまで上昇するだろうか」と強気の予測をしていたことから、イラクとリビアも増産に走ったことで、OPECの3カ月間の増産量は2013年の年間増産量を上回る規模(日量83万バレル)に達した。この増産が世界の原油需要の伸びが鈍化する時期と重なったことから、原油価格は9月にかけて10ドル下落する。さらに、10月の米FRB(連邦準備制度理事会)の量的緩和終了や11月のOPEC総会の決定(目標生産量の据え置き)なども災いして、原油価格は50ドル台まで急落した。

 現在の状況に戻ると、イランでは通貨安に伴う物価上昇が深刻で、経済の苦境が深まっている。サウジアラビアでもサウジアラムコのIPO(株式公開)が暗礁に乗り上げ、雇用状況が一向に改善しないことから、「ビジョン2030(2020年までに石油依存経済から脱却し、100万人分の雇用を創出する)」の成功が危ぶまれている。イエメンの軍事介入の財政への圧迫は致命的になりつつある。その他の湾岸産油国の経済状態も一向に改善していないことから、OPECが今後再び減産に再び舵を切るのは困難になりつつある。

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経済産業研究所上席研究員。1960年、愛知県生まれ。早稲田大学法学部卒。通商産業省(現・経済産業省)入省後、エネルギー・通商・中小企業振興政策など各分野に携わる。2003年に内閣官房に出向(エコノミック・インテリジェンス担当)。2016年から現職。著書に『日露エネルギー同盟』『シェール革命の正体 ロシアの天然ガスが日本を救う』ほか多数。

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