なぜ原油価格は地政学リスクでも上がらないのか

原油市場に供給過剰の懸念、下落トレンドは時間の問題か

2018.08.03(金) 藤 和彦
    http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/53726
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 7月25日、サウジアラビアが主導しイエメンの暫定政権を支援するアラブ連合軍は、「イエメン沖のバブ・エル・マンデブ海峡で原油タンカー(積載能力は各々200万バレル)2隻がフーシ派(イエメンのシーア派反政府武装組織)の攻撃を受け軽微な損傷が生じた。このため原油タンカーが同海峡を通過することを一時禁止する」と発表した。

 バブ・エル・マンデブ海峡は幅約30キロメートル、スエズ運河の開通(1869年)以来、地中海とインド洋を結ぶ海上交通の要衝である。同海峡を往来する原油タンカーは年間2万隻以上に上り、2016年には日量480万バレルの原油が輸送されている。

バブ・エル・マンデブ海峡(印の付いた場所)、出所:Googleマップ

 フーシ派がイエメン沖を通過する船舶を攻撃した事例はこれまでもあるが、船舶を撃沈するほどの被害は生じさせておらず(今回の攻撃でも負傷者や原油流出の被害はない)、同海峡の海上交通に致命的な影響を与える可能性は乏しい。また、バブ・エル・マンデブ海峡の原油輸送量はホルムズ海峡(今年上期の平均は日量2200万バレル)ほど大量でない。サウジアラビアは陸上のパイプラインを活用して同海峡の原油輸送を回避することもできる。

 よって、現時点で原油タンカーが同海峡を通過することを禁じられても、国際的な石油の供給や価格に大きな影響は出ないとの見方が一般的である。

 だが、影響はこれだけにとどまらない。フーシ派がバブ・エル・マンデブ海峡を航行する船舶に攻撃を加えたという事実は、アラブ連合軍がイエメンで6月中旬から実施している「黄金の勝利作戦」が効を奏していないこと意味するからだ。アラブ連合軍は6月13日、紅海沿いの主要港であるホデイダをフーシ派から奪還する大規模な軍事作戦を始めた。港と空港を奪還してフーシ派を追い込み、和平協議のテーブルに着かせるのが狙いである。攻撃開始直後に空港は奪還したもののフーシ派が抵抗を続けているため、戦闘は膠着状態となっている。

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経済産業研究所上席研究員。1960年、愛知県生まれ。早稲田大学法学部卒。通商産業省(現・経済産業省)入省後、エネルギー・通商・中小企業振興政策など各分野に携わる。2003年に内閣官房に出向(エコノミック・インテリジェンス担当)。2016年から現職。著書に『日露エネルギー同盟』『シェール革命の正体 ロシアの天然ガスが日本を救う』ほか多数。

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