なぜ原油価格は地政学リスクでも上がらないのか

原油市場に供給過剰の懸念、下落トレンドは時間の問題か

2018.08.03(金) 藤 和彦
    http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/53726
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 フーシ派は防御ばかりではなく反転攻勢にも出ている。7月18日、フーシ派は無人機を用いてサウジアラビアの首都リヤドにあるサウジアラムコの製油所を攻撃した(建物は炎上したが、石油施設の被害は不明)。フーシ派はこれまで弾道ミサイルなどで首都リヤドなどへの攻撃を繰り返していたが、無人機を使用したのは今回が初めてである。また19日、サウジアラビア国内のアラブ連合軍の司令部を無人機で攻撃した(死傷者は数名)。さらに26日には射程距離が1000キロメートルに及ぶ無人機を用いてアラブ首長国連邦(UAE、アラブ連合軍の一翼を担う)のアブダビ空港を攻撃した。

世界の原油供給量は今後も増加?

 フーシの攻撃はサウジアラビアの原油生産に深刻な打撃を与えるものではないが、原油市場が上昇勢いの局面であれば、現実の需給への影響にかかわらず原油価格は急騰していたことだろう。しかし、実際には急騰はしていない。

 地政学リスクが上昇しても、なぜ原油価格は急騰しないのだろうか。

 原油市場は7月10日頃までは強気一色だったが、直近では「地政学リスクは想定済みであり、長期的な相場上昇を支える材料になり難い環境となっている」との認識が広まっている。米国商品先物取引委員会(CFTC)によれば、ヘッジファンドの買い越し幅は縮小傾向を続けており、「WTI原油先物価格は昨年8月からの1年間で約30ドル上昇したが、下落トレンドに入るのは時間の問題ではないか」との声も聞こえ始めている。

 その背景には、原油市場が供給過剰になるとの懸念がある(7月20日付OILPRICE)。

 ロイター調査によれば、7月のOPECの原油生産量は日量3264万バレルと今年最高となった。減産遵守率は111%まで低下し、サウジアラビアの生産量は減産合意枠を10万バレル強上回る水準となっている。イランの生産量は前月比10万バレル減少したが、ベネズエラの生産量は前月比1万バレル減に留まっている。

 ロシアも増産の姿勢を鮮明にしつつある。ロシアのノヴァク・エネルギー相は7月28日、ウォール・ストリート・ジャーナルのインタビューで「OPECをはじめとする主要産油国は追加で日量100万バレルを増産する可能性が協議されるかもしれない」と述べた。6月のOPEC総会などで主要産油国は日量100万バレルの増産が決定されたばかりであり、ロシアが機動的な増産に積極的な姿勢を示していることから、「有事の際の原油供給不足はあまり大きな材料にならない」と市場関係者は考え始めている。

 米国でも、輸送能力不足のせいで主要生産地のパーミアン鉱区での生産の伸びが鈍化しているものの、足元の原油生産量は過去最高水準を維持している。米国政府が原油価格の高騰を抑えるため戦略石油備蓄(SPR)を放出する可能性もあることから、原油需給が逼迫しづらいとの見方が高まっている。

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経済産業研究所上席研究員。1960年、愛知県生まれ。早稲田大学法学部卒。通商産業省(現・経済産業省)入省後、エネルギー・通商・中小企業振興政策など各分野に携わる。2003年に内閣官房に出向(エコノミック・インテリジェンス担当)。2016年から現職。著書に『日露エネルギー同盟』『シェール革命の正体 ロシアの天然ガスが日本を救う』ほか多数。

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